デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
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28.何気ない瞬間に気付いたりするものです。
「ねぇあの子、すごい金髪じゃない?」
「金って言うよりか黄色?」
「あー、確かに」
「ってか隣の人でっか! 何センチよ」
そんな会話が聞こえた。私でも聞こえるんだから、バンブルビーとアイアンハイドにもバッチリ聞こえてるんじゃないだろうか。でも気にした様子はない。日本に居ればこの容姿は目立つから、既に慣れてしまったのかも。
「大丈夫? 外で待っててもいいんだよ?」
バンブルビーに聞くと彼は横に首を振った。アイアンハイドにはもう聞かない。どれほど言っても「護衛だから」と離れようとしないのは、これまでの経験上分かっていることだから。
「バンブルビー、飽きたら言ってね。私が代わるから」
「《いいや、任せろ!》」
今日は買うものが多いからカートを持って移動している。そうしたらバンブルビーがカートを押したい! とアピールしてきたので、それならってことで任せているのだ。
バンブルビーはとっても楽しそう。ロボットモードだとスーパーのカートもミニチュアサイズだろうから、こうして押せるのは新鮮なのかな?
ちら、とアイアンハイドを盗み見すると、彼は少し暇そうに辺りを見ていた。人間観察か、割引品を探してくれているかのどちらか。良さげな割引品があればいつも教えてくれるんだ。
……なんか、この二人を連れて買い物するのめちゃくちゃ恥ずかしいんですけど! すっごい目立つし!
いやいや、集中しよう。買い忘れたら困る。
「ええと、玉ねぎと……」
「キャベツも安いんじゃなかったか」
「そうでした!」
そんなこんなでカゴは満杯。トイレットペーパーはカートの下に乗せて、お米はアイアンハイドに持ってもらって、カートは相変わらずバンブルビーが担当してくれている。
私が持っているのはメモ用紙一枚。こんな楽させてもらっていいんだろうか。
お会計はやっぱりいつもより多いけど、買った量を考えればこれくらい安い方だ。
さて、問題はこれを持って帰ること!
「待ってろ、変形して戻ってくる」
「えっ、私達も行きます!」
「いい。暑い中歩くなんて無駄だっていつも言ってるだろ」
アイアンハイドはそのまま人気のない方へ行ってしまった。行っちゃったね、なんてバンブルビーに苦笑いして待っていれば、すぐに黒くて大きな車が私達の元へやってきた。
彼の中に荷物を預けて乗り込む。扉を閉めれば素早く発車し、彼は私の家の方へ向かった。
「いつもありがとう、アイアンハイド」
「当然のことだ」
いい加減聞き飽きた、とため息をつく。それくらい感謝してるってことなの!
「《珍しいこともあるんだな》《彼らの言うことは正しいようだ》」
「何が?」
彼らって、ジョルト達かな?
「《He changed》」
「変わった?」
バンブルビーは下を指さして言った。アイアンハイドのことかな。みんな言うんだね!
「えへへ、アイアンハイドには甘やかしてもらってるんだ。いつも助かってるの。もうアイアンハイドの居ない生活なんて考えられないかも」
なんて、ちょっと大袈裟だけど。
でもなんだかんだ二人で暮らすのに慣れてしまった。ディセプティコンの襲撃がなかなか訪れず、普通に毎日を過ごしているせいで。
こんなに続くと思ってなかったんだもん。ちょっと想定外だ。
だからアイアンハイドが居なくなったら、あんな狭い我が家が広く感じてしまうだろう。
「背が高くて力持ちだし。私にできないこと、色々できるから」
『……いいようにこき使ってくれる』
「そんなつもりは! ない、んですけど……実際すごく頼りにはしてるからなぁ」
見方によってはこき使ってるとも……まぁ、見えちゃうかな?
「……でも、それだけじゃないよ」
『本当か? 便利屋が居なくなると大変だからだろ』
「もう! 本当にそれだけじゃないって!」
笑いながら答える。
……それだけじゃない。
アイアンハイドは何とも思ってないだろうけど、私は、貴方が居なくなるときっと物凄く寂しいよ。
朝はおはよう、夜はおやすみって言い合って。「今日は暑いがあまり薄着するなよ」なんてちょっとお母さんみたいなこと言われたりして。それに時々作ってくれるご飯はすごく美味しいのが、またお母さんっぽい。こんなコワモテなのにね。
最近は仕事中にこっそり手を振ってみたら振り返してくれるのがかなり嬉しかったり。帰り道に「仕事に集中しろ」って怒られちゃったけど。
……そこに居るのが当たり前になっちゃったから、アイアンハイドが居ないことが怖いんだ。
護衛だとか、そんなのどうだっていいの。
『信じられないな。他の理由を言ってみろ』
「え~?」
ぶっきらぼうでちょっと粗暴でいっつも怖い顔なのに、決して私を見捨てたりしない、優しくて真面目なアイアンハイドが……たぶん……ううん。
「……教えません!」
『なんだと!?』
──好きなんだ。
そうだよ。私はアイアンハイドが好きなんだ。あんなに怖がってたのに、自分でも不思議。
自覚するとすとんと腑に落ちて、同時に泣きそうにもなった。
この気持ちは貴方には伝えられない。貴方は敵を倒したらアメリカに帰ってしまうから、それまでの脆い関係だから、わだかまりを残したくない。
私が何も言わなければアイアンハイドとは良好な関係で居られるはずだもの。
……だいたい、私には、好きだと伝える勇気もないんだから。
「……《仲がよろしいことで》」
バンブルビーが笑いながら言った。
そう見えてるなら、嬉しいな。