デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
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24.気まずくないと言えば嘘になる。
そんなこんなで部屋は綺麗になった。私一人じゃこうは上手くいかなかっただろう。高身長なアイアンハイドのおかげだ。
「お礼したいんだけど……ご飯……は食べれないし……」
服? あんまり高いのは買えないから、コスパがいいことで有名なお店くらいしか行けないかもしれない。アイアンハイドはどんな服を着ても似合うだろうけどね!
「何がいいかな……?」
「礼なんざ要らん。勝手にやったことだ」
うーん、でも結構やってもらっちゃったし、何もしないっていうのも悪い気がする。かといって良さげなお礼の仕方も思いつかなくて。
あれこれ悩んでいたらアイアンハイドはテレビを指差した。
「お前はあぁいうところに行かないのか」
テレビでは遊園地の特集映像が流れていた。夏場はイベントをよくやるから、それの宣伝みたい。ここからだと電車やバスで二時間くらいかな?
「あんまり。行きたいけど、一緒に行く人が居ないんですよ。こういうところって一人だと行きづらいし」
「……なら、ここに付き合え」
「えっ? いいですけど……アイアンハイド、ここに行きたいの?」
意外だなぁ。こんな場所に興味はなさそうなのに。
「俺が行きたがると思うか?」
「思わない……けど、だったら何で?」
「ヒューマンモードでしか行けない場所に行ってみるのも悪くないかと思ってな」
確かにそうかも。遊園地なんてロボットモードで行ったら大事件だもんね。いや、どこに行っても事件だわ。
「じゃあ遊園地行きましょうか! いつがいいですか?」
「ディセプティコン共の始末が終わったら」
アイアンハイドはこちらを真っ直ぐ見る。
そっか。狙われている今、人混みに行ったら危ない。こういう住宅街に居る時点で危険ではあるけど……遊園地よりはよっぽど閑静だし、人が少ないぶん戦いやすくもあるだろう。
「いつになりますかねぇ」
「早めに済ませば、早く行けるだろ」
「まぁ、確かに! ……日本で敵を全部倒したら、アメリカに帰るんですか?」
「あぁ、すぐにでもな」
……当たり前だ。彼らの本拠地はアメリカで、日本にはディセプティコンを倒しに来ただけ。こんな小さな国にいつまでも居続けるわけにはいかないよね。
でも、いざ帰るって聞くと……寂しい、な。
「おい? 水無月咲涼?」
アイアンハイドが怪訝そうな顔をしてこちらを覗き込む。私はそれに笑顔を返した。
「何でもないですよ! ところで、いつも思ってたんですけど……どうしてフルネームなんですか?」
「何がおかしい?」
いやいや、おかしいよ!
こう……本人をフルネームで呼ぶことってあんまりないじゃない。芸能人をフルネームで呼んじゃうことはたまにあるけど、目の前で話してる人相手だとない!
「名字か名前か、どっちかにしてもらえませんか?」
「……水無月」
これでいいかよ、とでも言いたげな不満そうな顔。いいです、いいですよ、それで!
……うーーーーん、ジョルトとサイドスワイプの心の距離が近かったぶん、アイアンハイドはものすごく遠く感じるなぁ。
多分、若いふたりがやたら近いだけで、本当ならアイアンハイドくらいが一般的なんだろうとは思う。
だって職場の人との距離間を思い出すと、アイアンハイドと同じかそれ以上遠い気すらする。
……フルネーム呼びじゃなくなっただけいっか!
「あっ、チャンネル変えますね。この時間はこっちの番組見てるので」
「そうか」
インドアなせいでテレビばかり見て、この曜日のこの時間はあの番組、みたいなのが決まっちゃってる。もちろん他に面白そうなのがあれば見るけど、だいたい変わらない。
「えーと……違うやつの方がいいですか? もっとちゃんとしたニュースとか……」
「いや、お前が好きなのを見ればいい」
「そう、ですか? ……あー、アイアンハイドも、好きに変えてもいいですからね!」
「あぁ」
「あと……」
「…………水無月」
あれこれ話しかけていたら、アイアンハイドが小さく溜め息をついた。呼ばれて口を止めると、彼は呆れたような表情をした。
「俺とふたりで気まずいのは分かるが、無理して会話をしようとしなくていい」
淡々と告げると、彼の視線はテレビに移った。夕方のワイドショーを興味なさげに眺めている。
気まずい、か。そんなつもりはなかったんだけど……気まずかったのかな。
うん、確かにアイアンハイドとふたりで家に居なきゃいけないのは心臓がもたなそう。緊張しちゃうっていうか。
「……アイアンハイドが、嫌いなわけじゃないんです」
「そうか」
「聞いてます?」
彼の横顔に聞くと、こちらを見もせずに「聞いてる」とだけ返ってくる。信じてないな?
「本当です! アイアンハイドは私を助けてくれたし、守ってくれた。感謝してるんです!」
「それでも嫌になることはある」
「私は違う! アイアンハイドのことすごく好きだよッ!」
ムッとして考えなしに口走ってハッとした。ち、ちがうの。その、あの……どう誤魔化そう……。
えーと、だから……、なんてもごもご悩んでいたら、アイアンハイドが私の手首を掴んだ。
「どういう意味だ」
静かに問うアイアンハイドは、ひどく驚いた表情に見えるし、どこか怒っているようにも見える。
「……や、優しくて、強いところとか、尊敬してる……ってこと、です! れ、恋愛とか、変な意味じゃないですから!」
「……」
アイアンハイドは曖昧に首を振って手を離した。
……最悪だ。私が変なこと言っちゃったせいで、なおのこと気まずくなっちゃった。この生活は長くなるかもしれないのに。