デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
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23.ようこそ我が家へ!
「……邪魔するぞ」
「はい、どうぞ! 散らかってますけど……」
数日後、私はようやく帰宅した。護衛をしてくれるというアイアンハイドと共に。
襲われた夜から一度も入ってない部屋は埃が溜まってる気配がする。拭いてないお茶碗は置きっぱなし、投函されたチラシは玄関でぐちゃぐちゃ。
……とりあえず、簡単に掃除でもしようかな。
「適当に座っててください。あっ、良かったら上着預かりますよ。ハンガーでその辺にかけておくので」
「自分でやる」
アイアンハイドは私が持っていたハンガーを受け取った。そして上着を適当にかけておき、窓際の壁に背を預けた。
今日はいつもと違って、シャツにデニムを履いたとってもシンプルな格好だけど、背の高いイケメンってだけで様になるなぁ。
「……座ってください。落ち着かないですよ」
「ここでいい」
「アイアンハイドが良くても私が良くないんです!」
腕を引いて座らせようとするがびくともしない。当然と言えば当然か。相手は金属生命体。今は人間サイズの身長と重量になっているが、元は何倍も大きなひとなんだ。
……どういう理屈かは知らないけど、ヒューマンモードって質量保存の法則とかをガン無視してる? あの巨体がこんなコンパクトになるなんておかしいもんね。でも、こういうのは深く考えちゃいけないものだ。
「ちょっと……う、動かない……!」
「お前の力は弱すぎるからな」
ふん、と鼻で笑ったアイアンハイド。
失礼な。トランスフォーマーの力と比べたら人類はみな脆弱です。
「とにかく! いいから座って、テレビでも見ててください! どうせ暇でしょ?」
ここには書類もないから大した仕事もできないだろうし。護衛だ何だと言っても、常に気を張ってるのはすごく疲れるだろう。
確かにディセプティコンがいつ襲ってくるかは分からない。でも、さすがに真っ昼間から正々堂々やってくるほど馬鹿じゃないと思う。
だって昼間に襲ってくるくらいなら車や人間に化ける必要ないもん。ディセプティコンだって人間にバレない方が都合がいいから隠密活動に徹してる。そうじゃない?
「油断しているときほど襲ってくるもんだ」
「それはそうですけど……」
戦う前に疲れちゃったら意味ないのに。まぁいっか。本人の好きにしてもらおう。
「じゃあ私は掃除とかしてるので、何かあったら言ってくださいね。テレビつけてもいいですか?」
「あぁ、好きにしろ。お前の家だ」
その言葉に頷いてテレビをつけた。特に見たい番組がなくてもつけておくのが癖になってる。人と話す機会もないから寂しくて、テレビがあるだけで紛らわせることができるのかも。
この時間は……そうだなぁ。ドラマの再放送でも入れておこうかな。気になって手が止まるかもしれないけど!
そうやって私は掃除を始めた。アイアンハイドは外を眺めたり、流れっぱなしのテレビに目を向けたり、部屋の中を見たりしていた。
時々私が見逃した汚れを教えてくれるので助かると言えば助かるけど、反対に「こんな小さな汚れよく見つけたな!」と思うこともあったり……。
「おい、そこにも埃が……」
「もー分かりましたから! 多少汚れててもいいから! 小姑みたいなこと言わないでくださいっ!」
ありがたいよ、でも何回も言われると疲れちゃう!
叫ぶように言った私に、アイアンハイドは不満げに口を閉じた。そしてそのままこちらに近付いてくる。
「え、なに……」
……お、怒った? うそ、ごめんなさい、だって小うるさかったんだもん……。
内心びくびく、心臓はばっくばくでアイアンハイドを見つめる。彼はムッとした表情のまま私が持っていた雑巾を奪い、指摘した箇所を拭く。
「えっ」
「小姑と言うよりは……」
アイアンハイドは言葉をそこで切った。拭く手は止まらなかったものの、不思議な間が空く。
「言うよりは?」
「……義父と娘だろ」
「えー! アイアンハイドがお義父さん!? ちょっとやだ……」
こんな厳しそうな義父いやだよ。仮にアイアンハイドが義父だったら義母は誰になるんだ。
「何が嫌なんだ」
「そりゃ年齢だけで言ったらアイアンハイドは年上ですけど、お義父さんはないですよ。人間の歳で言ったらそんなに離れてないんじゃない?」
トランスフォーマーとしての実年齢を言われると、何千歳って離れてるから年上とか年下とか言うのが馬鹿らしくなる。紀元前から生きてるんだから、あらゆる英雄よりも年上だし。
……生まれたてのトランスフォーマーってどんな感じなのかな……小さいのかな……?
「親戚の叔父くらいは離れてると思うぞ」
「そんな曖昧な……」
話してる間に結構な範囲を拭いてくれたアイアンハイド。雑巾を受け取ろうとしたら素早くかわされてしまう。
「ちょ、ちょっと!」
「うるさいらしいからな。見つけたところはやってやる」
「え、いいんですか?」
それはありがたい話である。お言葉に甘えちゃおうかな?
「じゃあ、高いところお願いします! 私じゃ届かなくって」
「……まぁ、いいが」
「やったー!」
アイアンハイドは「やると言ったのは確かに俺だが」みたいな顔をしてる。
そうだよ。私はその辺に座ってていいって言ったのに、やり始めたのはアイアンハイドなんだからね。
でも本当に助かる。一人暮らしで仕事・炊事・洗濯その他もろもろに追われる毎日だったから、掃除なんてろくに出来ていない。トイレとお風呂くらいだよ、それなりにやってるのは。
だからアイアンハイドが手伝ってくれるならピカピカにできちゃうかもしれない!
「でも、疲れたらやめていいですからね? 無理にやらせるのは申し訳ないし……」
「これくらいは余裕だ」
アイアンハイドは眉をひそめ真剣な表情で雑巾を固く絞った。図らずも彼のやる気に火をつけてしまったらしい。
疲れたら、無理に、って言葉が着火剤だったかな……?