デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
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2.幻覚か?
トレイを持った外人さんは迷わずにパンを取っていく。昨日と同じものもある。美味しかったのかな?
カラン、と鳴って反射的に挨拶をした。入ってきたのはまた外人さんだ。この人も迷彩服を着ている。先にいた外人さんに、後から来た人が気さくに話しかけた。
「Hey, Is this the bakery you said yesterday?」(よっ。これが昨日のパン屋?)
「Yes. Which do you like?」(そうだ。お前どれがいい?)
「Ah……Something sandwiched with meat.」(あー、肉が挟まったやつ)
「This is it.」(これだな)
何喋ってるか全然分からないけど、二人が話す度にパンが増えていく。それ何人で食べるつもりなんですか?
レジに来る頃にはトレイが三枚にもなっていた。
「えーと、袋はお持ちですか? この量だとうさちゃんバッグには納まらないと思うんですが……」
「うさ……? あぁ、昨日のか。あれはコイツの嫁の物だ。今日はバッグはない」
隣を指差した黒髪の外人さん。指を差された方はと言うと、何を言ってるか分からないせいかとりあえずにこにこしていた。
奥さんの物か。やはりこの人が買ったわけではなかったんだ。この人の物だったらギャップがまた良かっただろうに。まぁ、趣味は人それぞれだからね。
「じゃあ袋に入れますね」
井上さんに手伝ってもらいながらレジ打ちと袋詰めを進める。……わぁ、パン屋でこの金額は初めて見た。
「すごい量ですね、誰かと食べるんですか?」
井上さんが興味津々といった様子で話しかける。彼は頷いた。
「俺は食わないが、仲間が食う。昨日持っていってやったら評判が良かった」
「そりゃあ嬉しいです! これからもどうぞよろしくお願いします」
井上さんの営業スマイルは何度見てもうさんくさい。悪い人ではないけど、貼り付けた笑顔があからさますぎる。
二人の外人さんは大量のパンを持って去っていった。
「今の人、ずいぶん日本語が上手だったね」
「確かにそうですね」
気にしてなかったけど、発音や文脈に何の違和感もなかった。たまに芸能人で、見た目は外人でも日本生まれ日本育ち、かつ英語が喋れない! なんて人が居たりするけど、あの人は英語も堪能のようだ。
すごいなぁ。英語が話せるとそれだけでかっこいい。
私は外国に行くことなんてそうそうないだろうから、話せたところで仕方ないけれど。
やっぱりこの近くで何かしているのかな。イベントか何か……でもそれにしては軍人さんっぽいのはあの人達しか見ない。コスプレ?
何はともあれまたイケメン外人さんが見れた。ラッキーだ。明日は休みだからあの人が来店しても会えないけれど、今日の分で我慢しておくとしよう。
「お先に失礼します」
「はーい、お疲れ様ー」
「咲涼ちゃん、また明後日ね~」
店内の先輩達に軽く礼をして店を出た。
やっと明日は休み。ジュース買って帰ろ。今は十九時……割り引きのお惣菜があるに違いない。
薄暗い道をとぼとぼ歩く。夏は過ぎた。秋の半ばくらいだろうか。あっという間に冬が来て、寒い寒いって言いながら体を震わせるんだろう。幸運にも、この辺りは雪が少ないのがありがたい。前住んでた所は雪が降って電車が止まるのもざらにあった。免許はあるけど車の運転なんて怖くてできないし……電車やバスがないと困るのだ。
パン屋から歩いて数分のスーパーで甘いジュースを二本、お惣菜を二種類、あと普段より安いじゃがいもと玉ねぎ。お米ももうないんだけど、それはまた今度にしよう。ここはそんなに安くないし。
買い物を済ませて、ちょっと重い袋を持ってバスへ乗り込む。一時間もかからない道のりを経て自宅近くのバス停で降りた。近くと言っても、十分くらい歩かなきゃいけないんだけど。
よし、家に帰ればお惣菜で晩酌だ。夜更かしもしちゃえ。
「がんばるかぁ」
人通りは少ない。この時間ってこんなにヒトが居ないもんだったっけ? ちょうど退勤ラッシュくらいだと思うんだけど……。
ガシャン。遠くで何かが崩れるような音がした。わずかに地面が揺れる。
何の音? 気になったが確かめに行く勇気はない。気のせいにして自宅へ歩みを進めた。
──そのとき。
目の前を大きな銀色の塊が横切って、続いて黒く大きな何かが飛び出してきた。
「へ……」
ガシャーンッッ!! なんて建物が崩れる派手な音も耳から耳へ抜けていくくらいの衝撃。
黒が銀に……襲いかかっている? 銀はそれに抗戦しているようだ。
「なに、なに……」
デカイ何かが目の前で戦っている。何だ、何だ、これ。
幻覚? こんな、ハッキリと?
立ち尽くす私に、黒が叫んだ。
『何をしている! 邪魔だ、逃げろ!』