デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
17.What's this feeling?
「How's it going?」(調子どう?)
「あ……えー、OK! Good!」(大丈夫! いい感じ!)
「Oh, good!」(おぉ、良かった!)
水無月咲涼とNEST隊員はそんな簡単な会話を交わした。
似たような会話は何度もしている。案内するために歩いていたら隊員とすれ違うことは少なくなかった。アーシーズの居なくなった今、紅一点である水無月咲涼に彼らNEST隊員は鼻の下を伸ばしている。ムカつく野郎共だ。
確かに彼女は可愛い部類に入るのだろうし、アメリカで欧米人ばかり見ていた隊員にとって、日本人の愛らしさは欧米人の美しさとは違う魅力があるらしい。
ましてや水無月咲涼はディセプティコンの被害者。心配するのは当然だろう。
そんな奴が多かったため、英語で話しかけられて戸惑っていた水無月咲涼も、今では慣れてきたのかOKやGoodを適当に繰り返すようになった。
とは言え……。
「……Haha! Ironhide, don't look grim!」(ははっ! アイアンハイド、怖い顔するなよ)
隊員は笑いながら去っていった。……そんな顔はしていない。いつもこういう顔だ。
「みんな優しいんですねぇ」
呑気に呟く水無月咲涼にイラッとする。それだけなわけあるか。
「あまり関わるな。人間の男なんざ下心しかないぞ」
「そうなんですか?」
そうに決まってるだろ。馬鹿なのか。人間だって動物の一種。純粋な奴はそうそう居ない。
「お前は女で、力が弱いんだから男には勝てないだろう。隊員達は悪い奴じゃないが、気の迷いが起きないとも限らない。警戒はしておくんだな」
「それってアイアンハイドさんも?」
不思議そうに首を傾げる水無月咲涼。コイツは……いつまで俺をさん付けで呼ぶつもりだ?
「だから俺はさん付けしなくて……」
待て。このタイミングでそれを言うと、俺も下心があると思われないか? それは……いや、別にいいんだが……ひとまずやめておくか。
言いかけた言葉はどうにか飲み込んで、話の軌道を戻した。
「俺のこともだ」
「でも、アイアンハイドさんはサイドスワイプの師匠なんですよね? じゃあ、良い人じゃないですか?」
「アイツの師匠であることと良い奴かどうかは関係ないだろ」
人間の言う“頭が痛くなりそう”ってのはこういう感覚なんだろうか。頓珍漢なことをいうこの女に思わず溜め息が出る。
コイツはもっと警戒心を持つべきだ。こんな男しか居ない場所に女一人。ある意味ディセプティコンより危険だろう。
「そんなこと言われても、アイアンハイドさんを警戒しろって言う方が難しいですよ」
水無月咲涼は困ったように眉を下げた。
「私はアイアンハイドさんか、サイドスワイプかジョルトくらいしか話し相手が居ないんです。そもそも連絡先知ってるのアイアンハイドさんだけなのに、警戒してたらSOSもできないですよ」
……まぁ、確かにそうかもしれないな。コイツの電話番号を知っているのは俺だけ。仲間とは言え個人情報を誰にでも話せるわけではない。
「……好きにしろ」
溜め息まじりにそう返すと、コイツは少しだけ微笑んだ。ちょっと視線をやるだけでびくびくするくせに、そんな相手だろうと関係なく妙に頑固なところがあるんだな。
怖いなら心を許さなくてもいい。壁を作って距離を取ればいい。それなのに、どうしてやらないんだ。こうして案内するのだって……サイドスワイプに押し付けてやれば良かったな。精神年齢が近い者同士、仲が良いようだから。
少し後悔していたら、曲がり角からジョルトが姿を現した。水無月咲涼は大袈裟に肩を震わせ驚いた様子だ。
「わっ、ジョルト! 用事終わったの?」
ジョルトはというと、パッと笑顔になり「咲涼! 偶然ですね!」などと嬉しそうな声をあげたが……狙ってここを通っただろ?
俺だってそれなりに生きている。察しは悪くない。
この若造は水無月咲涼のことを憎からず思っているようだ。会って間もないわりにはずいぶんと慕っているようだしな。
「元々俺が案内する予定だったのに……ごめんなさい」
「ううん、いいんだよ。アイアンハイドさんが色々教えてくれたから!」
そこでようやくジョルトは俺を見た。
「ありがとう、アイアンハイド。後は俺がするよ」
引っ込んでろ、ってか? 生意気な奴だ。いいだろう、俺は俺でやることがある。人間一人だけに時間を使う訳にもいかない。
踵を返して書類の山の元へ向かおうとした。しかし。
「え……アイアンハイドさん、行っちゃうんですか?」
「……あ?」
水無月咲涼のか細い声。何でそんな声でそんなことを言うんだ。
「いや、い、忙しいですよね。大丈夫です!」
「……気にするな、責任者として最後まで俺が案内しよう。一般人を入れたくない部屋もあるからな」
どういうわけか、コイツはジョルトよりも俺を選んだようだった。優劣や勝敗などはないんだろうが……何となく勝った気がして、不思議と笑みが零れる。
「ジョルトも仕事が残ってるだろ。こっちはいいから片付けてきたらどうだ?」
「……あぁ、そうさせてもらう」
この感覚……奇妙だ。気分がいい。長い年月の中で初めてに等しい、何とも言い難い感覚。
……悪くない。