デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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42.手当てと敵とデートプラン。
『咲涼ー!』
『手当てしてくれー!』
アイアンハイドさんが去ってから、今日こそ掃除に勤しんでいたときだった。ツインズがわんわん泣きながら医務室に駆け込んでくるので、ラチェットさんと(またか……)なんて頷き合う。
この子達が怪我をするのなんていつものことだもんね。
「はいはい、今日はどうしたの?」
『バンブルビーが殴った!』
『ほらここ!』
それぞれの頬がへこんで、ぱちぱち小さな火花をあげている。あらあらまぁまぁ。一体何があったのやら。
『どうせ喧嘩でもしたんだろう?』
私もそう思う。
バンブルビーはトランスフォーマーの中でも若い方だと言うけれど、ツインズの前ではいいお兄さんなのだ。
喧嘩するふたりを止めてくれるし、見守ってくれたりする。喧嘩の止め方が乱暴なのは目をつぶろう。
今回も愛の鉄拳(鉄の拳、なんて言葉通り)で仲裁したに違いない。
「明日は私は居ないから、喧嘩も怪我もしないでね」
『えー! 何で居ないんだよ!』
「お出かけするの! だから明日はラチェットさんしか居ないからね? ラチェットさんの手当ては優しくしてくれないよ~!」
彼らの手当ては慣れたものだ。毎日のように来るから嫌でも手際が良くなる。
この双子、基本的には仲がいいはずなんだけど……仲がいいからこそ喧嘩するのかな?
私なんて、仲のいい友達にはズバズバ物を言えるけど、嫌いな奴ほど愛想よくしてしまうし……。
『やだぁー!』
「じゃあ、明日だけでも怪我しないように! スキッズ、マッドフラップ、分かりましたか?」
『はぁい』
よし。できることなら明日一日だけではなく、毎日気をつけてほしいところだけど……この子達にそれを言って聞かせるのも無茶な話だろう。
「……はい! ふたりとも、しばらくこのテープ剥がさないでね。今日寝て、明日目が覚めたら剥がしていいよ」
『今剥がしちゃだめ?』
「だめだよ! そのテープで押さえてるんだから。明日の朝!」
剥がすな、と言った矢先に剥がそうとするな! 全くこの子らは。人の話聞いてるの?
『ツインズ、治療が終わったら行きなさい。ほら、まだ任務があるだろう?』
『分かってるよっ』
『またな、咲涼~』
小さな嵐は過ぎ去った。
『ツインズの扱いが上手くなったね』
「そりゃあ、これだけ会ってれば上手くもなりますよ! なんだか弟ができたみたいで楽しいし」
生きている年数で言うとツインズの方が上かもしれないけど、精神年齢で言えば私の方がお姉さんだろう。
うるさいときもあるけど、甘えてくるのは可愛いものだ。
「……あ」
窓から遠い空に黒い点が見えて、斜め気味に近付いてくるそれが輪郭を現す。
あれは飛行機だ。たまにこの辺を飛ぶんだよね。轟音がわりと好きだったりするから、飛んでるとテンションが上がる。まぁ……四、五日に一回くらいでいいけど……。
よく見たら黒を基調として、羽の辺りにバラのような模様が描かれている。おしゃれだなぁ。あれ、普通にお客さん乗せるのかな? それともプライベートジェットとかってやつ?
「なんか、飛行機っぽくないですね」
『あれは……』
飛行機を見上げたラチェットさんの目が鋭くなる。飛行機がまた点となって消える頃、どこかに連絡を入れ始めた。
『Rachet. There is a reaction around here now……I thought so. ……No, I've never seen. ……Haha! Starscream? There is a possibility. If that is he, let Megatron do it.』
(ラチェットだ。今この辺りに反応が……やはりか。……いや、初めて見る。……ははっ! スタースクリームか? 可能性はあるな。もし奴だったなら、メガトロンに任せればいいさ)
何か、不穏だ。英語ってことは軍の誰かだろう。あるいは私に内容を知られたくないか。
もしかして今の飛行機、ただの飛行機ではなくて……敵?
私はこの基地に籠っていることが多いから、まともに敵と出くわしたのは私の家をぶち壊したアイツだけ。すぐオプティマスさんに倒されたが、一生許さん。
『……OK, I asked. I will also do what I can.』
(……OK、頼んだ。こちらもできることはやっておく)
「……ラチェットさん、今のって」
通信を終えたところで恐る恐る聞くと、ラチェットさんは神妙な顔つきから優しい笑顔になった。
『心配することはない。あれは確かに敵かもしれないが、今のところ攻撃してくる様子はない。こちらが襲われる前に居場所を突き止めるさ』
その後のことは言わなかったけど、きっと……ううん、それが彼らの仕事だし、戦争なんだ。
「明日のデートは無しかぁ……」
『なぜそうなる?』
「これじゃオプティマスさん、明日も仕事ですよね……」
さすがに新しい敵が見つかったのに呑気にデートさせてもらうなんて申し訳ない。
ラチェットさんはなるほど、と呟いた。
『そういうことか。敵が居るから外に出たくないのかと思ったよ』
「えー、そういう心配はしてませんよ! だってオプティマスさんはすごく強いんですよね? この基地に来る前も私のことを守ってくれたんですから」
それよりデートが無くなっちゃうのがつらいよ……。
憂鬱でがっくりと肩を落とした。ラチェットさんは笑いながら背中を撫でてくれて、『オプティマスが居なくてもいいように交渉するよ』と慰めてくれた。
気休めでも嬉しいです……。