デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
What's your name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
36.似たもの同士の恋人たち。
ラチェットさんは、金属で分かりづらい顔でも見て取れるほど疲れているような表情だった。サイドスワイプもディーノさんも微妙な苦い顔をしている。
私、そんなにもおかしなこと言った?
ラチェットさんは『ちょっと待ってなさい』と言い、誰かに連絡し始めた。
『……あー、オプティマス? 仕事の方はどうだい? ……ふむ、調子はいいようだね』
オプティマスさんの声はこちらには聞こえない。ラチェットさんの通信でしか聞き取れないのだろう。
『そっちに人を送るから、少し時間を貰っても構わないかな? ……いや何、仕事ではないよ。まぁ何だ、とにかく休憩を取るつもりで相手をしてやってくれ。……あぁ、頼むよ』
通信を終えたラチェットさんは私を見た。
『咲涼は今すぐオプティマスの所へ行きなさい』
「えっ、何でですか!? 掃除終わってませんよ!」
『そんなんじゃ掃除も手につかないだろう! どうせすぐ汚れるんだ、掃除は明日でも明後日でも構わないよ』
ラチェットさんは私からモップを取り上げ適当に投げると、ディーノさんに指示を出した。
『ディーノ、咲涼を送ってやってくれ』
『何で俺が!』
『サイドスワイプはまだやることがある。それに原因を突き止めようって言い出したのはお前じゃないか』
『チッ……』
めんどくせぇー! ……って顔をしたディーノさんは、渋々といった様子でビークルモードになった。ピカピカのフェラーリ……もしかして乗るの初めてかも。
いやいや、そうじゃなくて!
「何でオプティマスさんの所に行くんですか? 仕事の邪魔はできません……」
『いいから。彼の仕事は順調に片付いているようでな、ここ最近忙しかったのがようやく落ち着いて来たらしい。とにかく今は君がここに居ても何もできないだろうから、彼に会ってきなさい』
そして、自分の気持ちの変化とよく向き合うんだよ。病を治すのに大事なのは、状態を観察して、適切な治療をすることだからね。
ラチェットさんの声は優しかった。でもその言い方、まるで私が病気みたいじゃないですか? 私、悪いところは何もありませんよ。
とにもかくにも私はフェラーリに乗せられて総司令官の執務室にやってきた。私を下ろした真紅のフェラーリは『迎えには来ないからな』と吐き捨て、びゅんと駆け抜けあっという間に点となる。
部屋の中にはペンを走らせるオプティマスさんが居て、真剣なその顔にどきっとした。
「……咲涼? 君だったのか」
こちらに気付いたオプティマスさんはにこやかに笑いペンを置いた。手招きされて近くに行くと椅子が用意されて、私はそこに腰を落ち着ける。
「どうしたのだ? ラチェットからいきなり連絡が来たが……」
「う~ん、私もよく分からないんですけど……」
こんな経緯があって、と説明すると、オプティマスさんは「それは……」と言ったきり押し黙った。何を言おうか迷っているようにも見える。
「…………あー、咲涼。それで、どうだ。落ち込んでいた気分はまだあるか?」
ラチェットさんは気持ちの変化とよく向き合うように、って言ってたっけ。
「そう言えば、今はないですね。オプティマスさんと居ると安心するからかな?」
「それは光栄だ」
オプティマスさんははち切れんばかりの笑顔をしていた。その瞳は蕩けるような甘ったるさを私に送っていて、彼の大きな手が頬を撫でると体が動かなくなる。
「咲涼も、私と同じなんだな」
「えっ?」
同じ、って?
「私が咲涼に会いたくて仕方なかったように、咲涼も私に会いたかった。だから仕事に集中できなかった……と思っていいんだろう?」
「え……」
「違うか?」
微笑んだまま小首をかしげるオプティマスさん。それを見ていると胸がちくちくどきどきして……。
「──ッッ!?」
ぶわっっ、と顔に熱が集まった。全身の体温が集中しているみたいに顔が熱い。
なに、なに、なに!?
私、わたし、……そ、そんな、うそ!
だってだって、私は仕事中は会わないようにしましょうねって、提案した側なんだよ!? 食い下がるオプティマスさんに、無理やり頷かせて、それで今この状態にした張本人だよ!?
それなのに、それなのに、オプティマスさんが頭から離れなくて、それで、会いたくて、顔が見たくて仕方ないって……思ってたの……?
「ち、ちがっ……」
「そうか、違うのか……」
「ち、違うっ、そうじゃなくて……違う、ちがうんです……!」
違う、を繰り返す私自身にも、何がどう違うのか分からない。頭の中がぐちゃぐちゃで混乱して収拾がつかない。
オプティマスさんはそんな私をそっと抱きしめた。ちょっと冷たくて硬い体に包まれて、私の脳内はぴしっと止まる。
「落ち着け、咲涼」
「……はぃ……」
とんとん、と背中を優しく叩く仕草に落ち着きを取り戻していった。
だからと言ってぐちゃぐちゃな頭が整理されることはなくて、まだ自分の気持ちを受け入れられなかった。