デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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33.恋の病の処方箋。
「オプティマスさん!」
「あぁ、おかえり、咲涼。どうしたんだ?」
執務室に戻った私は、ややぼんやりしながらペンを走らせるオプティマスさんの肩を掴んだ。
「咲涼?」
「私……オプティマスさんのこと、すごく好きです。いつだって優しくしてくれて、私のことを第一に考えてくれる」
優しいのは元からだっていうのは分かってる。私でなくても彼は穏やかで優しい。だけどやっぱり……私に対しては格別に甘いと思う。それが嬉しくもあり、……今は、少し複雑だ。
「オプティマスさんが、私のことを好きでいてくれてるのは、すごく伝わってくるんです」
「あぁ、私は君を愛している。それを表現はしているつもりだが……」
オプティマスさんは腕を伸ばしてぎゅっと抱きしめてくる。最近はこうやって包み込んでくれることは多いけれど、何度やられても嬉しいものは嬉しい。
でも今はだめ!
ぐいっとオプティマスさんの胸板を押して引き剥がす。彼は悲しそうな顔をした。そんな顔をしてもだめです、私は大切な話をしにきたんですから。
「オプティマスさん……あのね。私は貴方のことが好きだけど、私を何よりも一番にしてほしくはないんです」
大切にしてくれるのも、一緒に居てくれるのも、全部ぜんぶ嬉しいんだけど……オプティマスさんは私の恋人である以前に、オートボットの総司令官だ。
彼らは私の知らないところで敵と戦い、傷つき、世界を守ってくれているはず。私はそんな彼らにとってちっぽけな存在だ。何の役にも……立てない。
「貴方が居なければ、今の世界の平和はなかっただろうし……私がここに居ることも、なかった。だから、うーん……なんて言えばいいのかな。私は……オプティマスさんの邪魔をしたくないんです。私が居るせいでオプティマスさんが集中できないなら、私のことなんて忘れてほしい」
忘れてほしいって言うのはちょっと、極端すぎるけれど。でも私が居なかったならオプティマスさんがこうなることもなかっただろう。
ジャズの言うように、戦闘において集中もできずにいたら、いくら強いオプティマスさんでもやられてしまうかもしれない。トランスフォーマーにも死という概念はある。彼が死んで、二度と会えなくなったとしたら……そのとき私はどうしたらいい?
「咲涼……君が私の邪魔になるなど、そんなことは有り得ない。私は以前と変わっていないはずだ、問題などどこにある?」
この男は……自覚がないんだから!
変わってないわけないじゃない!? 問題しかないじゃない!?
「……とにかく! オプティマスさんは、仕事に集中してほしいんです。だからしばらく……距離を置きましょう」
私だって恋人と一緒に居たいよ。でもオプティマスさんは病的だ。結構、重めの。たぶん……末期の。
「咲涼! なぜだ! そんな……」
「いいですか、オプティマスさん! 私も……いちゃいちゃ、したいけど……貴方は私と離れて過ごすことに慣れてもらわないと。だから仕事中は会いに来ちゃだめ!」
「……断る」
ぎゅぅうう、と強めに抱きしめられた。肩を押して離そうとするがびくともしない。そもそも彼は金属生命体だし、私なんかの力で勝てるはずがないのだ。
「やっと君と結ばれたのだ。離したくない。そばに居たいんだ。それとも、他に好きな男でもできたのか?」
「そんなわけ……私のこと、信用してないんですね」
確かにここはかっこいい男性が多い。だからと言って、オプティマスさん以外のひとに目移りするなんて有り得ない。
「違う! 信じていないわけでは……!」
「なら、離してください」
オプティマスさんは体つきのしっかりしたハンサムな男性だが、この時ばかりは子犬のように見えた。渋々腕を緩めるオプティマスさんに「ありがとう」と呟いて、少しだけ距離を取る。
「ごめんなさい、オプティマスさん。私は貴方のことが大好きです。だから毎日会いに来ます。仕事が終わったら、夜は一緒に過ごしましょう!」
「……私が会いに行く」
「うん、嬉しいです。でも仕事中はだめですよ。業務時間中は、目の前の仕事に集中するんです。できますよね?」
頬を撫でながら子供を諭すように話しかける。彼は唸りながら頷いた。
ちょっと……無理やりすぎるかな。だけど思い切って行動しないと、きっと改善しないだろうし。
ジャズ達がレノックスさんに相談したところで変わるとも思えない。対処のしようもなく、結局のところこうやって引き離すくらいしかないだろう。
「咲涼……」
「前も仕事中は会えないで、終わってからお話ししてましたよね?」
それにまた戻るだけ。
「口付けをしても?」
「す、少しだけ、なら」
縋るような瞳に断りきれず、どちらからともなく唇を重ねた。今生の別れってわけじゃないのにオプティマスさんはひどく悲しそう。
「んっ……オプティマス、さん……」
何度も啄むようなキスをするから、ちょっとずつ顔に熱が集まってくるのを感じる。目の前の彼は見たことの無い蕩けるような目をしていて……もうだめ!
「お、おわり! もうだめです!」
「もう少し」
「だめ! 仕事中ですから……っ」
逃げるように執務室を出る。しかし立ち止まって、扉から少し顔を覗かせる。
「仕事が終わったらここに来ますから……待っててくださいね」
「あぁ!」
ぱっと笑顔になったオプティマスさんを見て、少しだけ安心した。