デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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32.違和感の正体。
やはり、オプティマスさんは何かが変だ。以前とは決定的に何かがおかしい。それは決して悪いことではないように思うけど、どうだろうか。
「オプティマスさん……仕事しないと」
「分かっている」
「分かってる、って言っても……」
正面から私をすっぽりと包み込む、オプティマスさんの大きな体。力強い腕は私の背中に回り込んで離さない。これのどこが仕事をする体勢だと?
「駄目ですよ。オプティマスさんは司令官なんだから!」
「咲涼、もう少し」
「~~っ……! もう、だめです!」
耳元で低い声が聞こえて、ついつい流されそうになってしまう。しかし私は真面目なのだ。いくら素敵な声で惑わされても仕事に対してはしっかり取り組む。
オプティマスさんは少し唸って、渋々身体を離した。私は何度か頷いて山になった書類を仕分けていく。
……最近は、本当に毎日これだ。医務室での仕事はほとんどなく、オプティマスさんの執務室に呼ばれて何をするでもなく彼のそばに居る。あまりにも暇で仕方ないから、書き終わったり届けられた書類を分かりやすく置き直すくらいはやるようになった。
そのおかげで全く分からなかった英語も急成長している。Ratchet、Jazz、IronhideにBumblebee、そしてOptimus Prime!ふふん、どんなもんだ。
おっと、『俺は!?』なんて声が聞こえたような気がする。もちろんSideswipeも書けるよ、この通りね!
それはともかく。本当は終わった書類くらい届けに行ったりしたいのだが、オプティマスさんはそれすら止めてしまう。
いくら何でも……これは、ちょっと、
「なんて言うんですっけ、こういうの……」
「何がだ?」
縛り付けられているみたいな。それによって行動を制限されている、みたいな。身動き取りづらい、というか……。
「オプティマスさん。ちょっとお手洗い行ってきます」
彼はそればかりはさすがに着いて来なかった。「すぐに戻りますね」と言って、ここからはちょっと距離のあるお手洗いまで向かった。
オプティマスさんは金属生命体だからそういうことしないだろうし、執務室も適当な場所にしたんだろうなぁ。私としてはその遠いトイレまで徒歩で行くの、結構面倒なんだけど……。
『おーい! 咲涼!』
「ジャズ! アイアンハイドさんも!」
シルバーのピカピカな体を揺らして大きく手を振るジャズと、なんの反応も無いアイアンハイドさん。
あれっ、私、アイアンハイドさんとはもう少し心の距離が近かった気がするのになぁ。
「休憩中? どこか行くの?」
『レノックスに話があってな。アイツは忙しいから、たまの内勤の日に用事を済ませておかねぇと』
『俺は毎日会うからいいが、ジャズはそうもいかん』
アイアンハイドさんの言葉に『そうそう』と頷くジャズ。
あぁ、そう言えば、アイアンハイドさんはレノックスさんと一緒に行動してるんだっけ?送り迎えだったり家族でのお出かけだったり、仕事以外でも乗せているって聞いたことがある。
私が小さい頃はぬいぐるみを隣の席に一緒に乗せたりしてたけど、あの可愛い娘ちゃんもそういうことするのかな? このゴツイアイアンハイドさんにぬいぐるみが乗ってるなんて、想像するだけでギャップが可愛いな。
『咲涼はどうしたんだ?』
「うーん、オプティマスさんの所に居たんだけど、気分転換にお手洗い行こうと思って」
二人とも『あぁ……』と憐れむような視線を送ってくる。ロボットモードだと表情が分かりづらいし、目の感情の変化もわずかなものだけど、この視線はとても分かりやすい。
アイアンハイドさんはあからさまに溜め息をついて首を横に振る。
『オプティマスも困ったもんだ。晴れて結ばれたんだから心配することもねぇだろうに』
『そうだよな。むしろ総司令官の恋人を誰が盗るっていうんだ? 今以上に安全な立ち位置なんかないぞ』
確かに。私はオプティマスさんのことがとても好きだし、だからこそお付き合いしているし、他のひとに目移りすることなんてないと思う。
ましてや、とてもとても強い彼の恋人に手を出せばどうなるか……想像するだけで恐ろしいっていうのに、実行する奴が居るだろうか?
彼の恋人で居る限り、私は鉄壁の要塞に護られているも同然なのだ。
『いくら何でも束縛が酷すぎるだろ……咲涼も大人なんだから。なぁ?』
「束縛……そう、だね……」
そうだ、束縛だ。身動きを取りづらいみたいな、息の詰まるような感じ。
そりゃあ、私は人間の基準なら大人だけど、トランスフォーマーからしたら小さな生き物だ。年齢だって全く違うはず。
過保護な気持ちが束縛へと強まっていってもおかしくはないけど……。
『まぁ、今後のことはレノックスに相談して考えるさ』
「えっ、もしかして話って……」
オプティマスさんについて?
二人は若干気まずそうに頷く。
『……さすがにあの様子は見過ごせない。俺達は我慢した方だ』
『今はわりと平和だけどな、戦うことはまだ多い。そのときオプティマスの力を頼ることもあるんだ。腑抜けた態度で戦われちゃあ、無駄に命を落とすだけさ』
「そんな……」
そんなのは嫌だっ!
私は彼よりもずっとずっと寿命が短いから、少しでも彼との思い出を多くしたい。もし私が先に死んでしまっても、彼にはその多くの思い出を忘れないでいてほしい。
もちろん、その逆だって同じこと。
だけどまだまだ足りないよ。オプティマスさんと見たい景色がたくさんあるし、話したいこともたくさんあるし……一緒に居たいのに。
「……私がオプティマスさんとちゃんと話してみる」
『え?』
「私が何とかしてみせる!」
『おいっ!』
二人の困惑した声を背に、私は彼が待つ執務室へと戻った。
【作者から】
最近になって読み返していたところ、どうやら前半の夢主ちゃんは全然お休みをもらっておらず働き詰めのようでした。カワイソウ。
そこで裏設定というか補足です。
週2日ほどお休みはあるけれど、英語が話せない夢主ちゃんは建物にこもるしかない。
そのためオプティマスは、都合の合うTFが居る時に「気分転換がてら外出でもしたらどうか」という意味で「休みが欲しくはないか?」と聞いているのでした。
有給消化だと思います(むりやり)。
以上、長くなりましたが補足です!
私の書き方の甘さが問題ですが、どうしても気になってしまいました。そりゃ高熱も出すわ。