デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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31.変化の可視化。
オプティマスさんと気持ちが通じあってから一週間が過ぎた。彼は相変わらず私の部屋まで迎えに来てくれるし、そんな毎日が今まで以上に幸せになったのは間違いない。
しかしそれだけだ。大した変化はない。ただ一つを除いて。
「こんなに変わらないこと、ある……?」
『元々イチャイチャしてたじゃないか』
「え、そうかな……」
医務室で溜め息まじりで呟いた私に、ラチェットさんは頷いた。私はそんなつもりなかったんだけどな……イチャイチャって、だって別にみんなの前でベタベタとくっついていた記憶もないし……。
『それに最近なんて、オプティマスは……』
ラチェットさんが何か言いかけたとき、医務室の扉が開かれた。入ってきたのはカッコイイロボットモードのジャズで、彼はバイザーをサッと上げるとバチッとウインクをした。うーん、イケメン。
『どうした? ジャズ』
『いや何、別に俺は元気なんだが。オプティマスがな』
『またか……』
ラチェットさんとジャズがこちらを見る。
『……最近は毎日のようにこれだものな』
『あぁ、困ったもんだぜ、司令官様もよ。“恋人の顔を見ないと落ち着かない”、“仕事が手につかない”、なんてな』
そう。オプティマスさんは、事ある毎に私を執務室へと連れていくのだ。本人が医務室までやってくることもあれば、今日のように他のひとを寄越すときもある。とにかくどうにかして私を執務室に居させたいらしい。
これが唯一、オプティマスさんとお付き合いを始めて変わったことだ。
元より医務室での仕事はラチェットさんの補助程度。決して私が必要不可欠というわけではない。しかし一応私の役職はトランスフォーマー専属のメカニックだ。オプティマスさんの執務室に入り浸っては仕事放棄にも程がある。
お給料だってきちんといただいてるのだから、仕事はこなさなければならない。いや……まぁ銀行のこととか全然分からないし、給料明細を見ても何が何だか分からないので、管理はオプティマスさんがしてくれていて。この歳で本当に情けない限りなんですけども……。
そう言えばトランスフォーマーのみんなはお給料ってあるのかな?
『ま、そういうわけだから、咲涼。俺と一緒に来てくれ』
『……うん、分かった』
ラチェットさんに別れを告げて、私はジャズと共にオプティマスさんの執務室へ向かった。
それほど遠くないその部屋まで来ると、ジャズはすぐ人間の姿になってバイザーの位置を整えた。やっぱり綺麗な銀髪だ。
「オプティマス、入るぞ」
「失礼します……」
部屋の中では、オプティマスさんはペンを適当に置いて、背もたれに寄りかかって天を仰いでいた。
私達に気付いたオプティマスさんはすぐにこちらを向いてほっと溜め息をつく。
「咲涼……」
「おいおい、お使いに行った副官には何もないのか?」
「あぁ……すまない、ジャズ」
山のように重なる書類を見て何か言いたげな顔をしたが、いいってことよ、とだけ告げて去っていくジャズ。
私はこの部屋での定位置となりつつある、オプティマスさんの隣の席に腰を落ち着けた。隣の席と言っても普段は誰も使っていない机と椅子だから、ほとんど書類置き場みたいな扱いだ。
「今日はどうしたんですか?」
「いや……咲涼の顔を見たら落ち着いた」
「そう……?」
彼は本当にペンをすらすらと走らせる。さっきまでの調子の悪そうな様子はどこへ行ったのだろう。
「Optimus. ……Oh! 咲涼! 何でここに?」
「オプティマスさんに呼ばれたの」
扉が開かれ、銀髪を揺らしながら入ってきたのはサイドスワイプ。以前のように毎日顔を合わせることも少なくなって、こうしてちゃんと会話をするのもずいぶん久しぶりだ。
「サイドスワイプは何の……」
「書類だな。そこに置いてくれ。置いたら仕事にすぐ戻るといい」
何の用でここに? と聞こうとしたら、オプティマスさんがそれを遮った。そんなに食い気味で喋ることもないじゃない、と彼を見つめるが、オプティマスさんは私の視線に優しく微笑むだけだった。
サイドスワイプは確かに書類を持っていた。「Ah……」と何か言いたげに視線を泳がせた彼だったが、やがて机に書類を分けておいて扉に向かう。
「お邪魔したようで申し訳ありません。失礼しますっ」
やけに改まった敬語で、何故か敬礼をしてから部屋を出ていったサイドスワイプ。
妙な静けさだけが残された。私はやることがないし、オプティマスさんは書類に向き合っているし、手持ち無沙汰だ。
「オプティマスさん、怒ってるんですか……?」
先ほどのオプティマスさんの、サイドスワイプに対するトゲのある言い方が何だか気になる。いや、彼だけじゃない。私にはとても優しいけど、最近は誰に対してもちょっと厳しいように見える。
「いいや、怒ってはいないが……そう見えるだろうか」
「うーん、何か変な感じがします。前とは違うっていうか……」
何が違うのかと聞かれると困るけれど。
軽く唸りながら考えていると、オプティマスさんは「嫌いになったか?」なんて悲しそうなら顔で聞くから。
「やだ、そんなわけないじゃないですか! すごく……好き、だいすきです」
好きだと言うのは恥ずかしいけれど、こう言う度にオプティマスさんは安心したように口元を押えながら笑う。
それを見て私も安心したり、するのだ。