デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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29.白状しなさい。
『さて、話を聞かせてもらおうか』
次の日、食事の後いつものように医務室に入ったら、ラチェットさんが腕を組んで待っていた。いいや、ラチェットさんだけではない。バンブルビー、サイドスワイプ、ディーノさん、それからアーシーズまで。みんなロボットモードで立っているものだから圧迫感がある。なぜこんなにも集まっているのか。
「話って?」
『決まってるじゃない。デートの成果よ』
「でっ……」
サイドスワイプがするすると近付いて、おもむろに私の脇下へ指を滑り込ませ、猫のように抱き上げる。体が宙ぶらりだから怖いけれど、サイドスワイプはしっかり私を掴んでいるので落ちる心配はなかった。しかし逃がさないという強い意思も感じる。
『《彼とはどうだったんだ?》《カワイコちゃん》』
「ど、どうって言ったって……」
『ちょっとバンブルビー! 独り占めしないで』
バンブルビーがのぞき込むように前に立つと、彼よりも小柄なアーシーズが不満そうに声をあげた。
なんだこれは。事情聴取か。きっと昨日のことを根掘り葉掘り聞かれるに違いない。誤魔化して乗り切るか? けれど、彼らに誤魔化しが通用するようには思えない。かといって全てを喋ってしまうのも……。
『正直に答えろ。お前の命は俺が預かってるんだぜ』
「脅すの!? サイドスワイプがそんなひとだったなんて!」
『あら、脅しだなんて人聞きが悪いわ。素直にぜーんぶ、聞かせてほしいだけよ』
ラチェットさんもバンブルビーも、アーシーズもサイドスワイプも、みんな結託してしまっている。唯一そうではなさそうなディーノさんに顔を向けたが、彼はとぼけたように頭をかしげて受け流すだけだった。こういうことには興味がなさそうな彼も今回ばかりはそうじゃないらしい。聞きたいのかどうかは別として、あちら側のようだ。そもそもディーノさんが私の側につくことがあるのか。多分ない。
「な、何を聞きたいんですか! 私が簡単に話すと思いますか!」
『話してくれた礼には、このレンチセットを渡そうと思っていたんだがな……』
「そっ、それはっ」
ラチェットさんが指先で揺らすそれ。私が欲しくて欲しくてたまらなかったが、どうしても高くて手が出せなかったレンチセットだ。いつだったか医務室が暇だったときに工具の話で盛り上がって、あれが欲しいとかこれが欲しいとか話したことがあった。それを覚えていたのか。
レンチセットを出されたって、私は簡単に口を割るような女じゃない。そこまでの勇気もない。
『新しい工具箱も欲しがっていたよな? 要らないのか? 高かったんだかな、捨ててしまおうか』
結論から言って、ほとんどのことを話した。負けてしまった。工具に負けてしまった。彼女たちが言ったように、深く深く追求された。彼女たちは任務があるとかで既に居なくなったが、それでも魔の手が差し迫っている感覚が残っている。
「うぅ……私、こんなつもりじゃ……」
彼らが使う診察台の上で、ラチェットさんに渡された工具を胸いっぱいに抱きしめながら後悔した。あぁ、だけど、これも幸せだ。工具がいっぱい。こんなに貰っていいのかな。
『だが、やっと結ばれて良かった。君たちがあまりにも奥手だから、私は気が気ではなかったよ』
ラチェットさんは笑う。まるでお父さんだ。お父さんはこんなに喜んだりしないものだろうか? うちの娘はお前にはやらん! とか……いや、今どきそんなこと言う親は居ないな。
『司令官はそりゃいいひとだぜ、だけどさぁ、俺じゃだめ?』
しゃがみこんで、診察台に腕と顎を乗せるサイドスワイプは、甘えるような声を出した。いつもクールな彼がそんな声を出すのは珍しくてぎょっとしてしまうが、それ以上に冗談を言うなんて、と驚く。サイドスワイプはとてもカッコイイ。これはオプティマスさんにも言えることだが、私でなくたって良い女性は居る。絶対に居る。
『俺の方がイケてるだろ』
『ふざけんな』
ラ・フェラーリをスキャンした影響か、どこかイタリア気質なディーノさんは、これまた珍しく子供のように張り合い始めた。私、もしかしてモテモテなんじゃない? なんて調子に乗った勘違いをしてみたり。彼らのそれが本気でないことは分かってる。
「ディーノさん、街の女の人のこと“食べてる”って噂ですけど、それ本当なんですか? なんか、付き合ったら浮気しそうですよね……」
『俺に恋人は向かない』
暗にワンナイトラブならいいってことを示しているようで、なんだか複雑な気分になった。話を振ったのは私だが、なんかこう……リアルだ。
サイドスワイプはとても誠実そう。浮気なんか絶対しないし……というか、根本的に恋愛にもストイックそうだ。
「……あっ」
雑談とも言えないような会話を続けていたとき、医務室の扉が開いた。やって来たのは元々の話題のひと、オプティマスさんだった。