デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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24.恋する乙女。
無事体調も回復し、その後もオプティマスさんは、毎朝迎えに来てくれた。会話は以前より少ない。少しくらい話そうと思っても、何もなかったかのように当たり前にやってくる彼に話しかけるなんて、逆に気が引けてしまって無理だった。せいぜい交わすのは挨拶程度。決して雑談などせず、気まずい雰囲気が漂う。それがずっと続けば憂鬱にもなる。悩みなんてもんじゃない。
「嫌われちゃったのかな」
しんとした医務室に私の声がかすかに響く。ジャズとラチェットさんは静かに話を聞いてくれた。言葉が詰まっても口を挟んだりしないし、泣きそうになったら慰めてくれた。ラチェットさんはどちらかというと自分の好奇心のために相談にのっているようだけど、ジャズは私のためを思ってくれているようだった。偶然とはいえ先程医務室にやってきて、仕事を放棄してまでここに残ってしまうのだから、良いひとなのか悪いひとなのか分からない。
本当はアーシーさんたちに相談すればいいのだけど、誰かに自分から話すのは恥ずかしくて、このふたりとしか共有していない。
『仮にオプティマスが君のことを嫌ってるなら、わざわざ迎えに行ったりしないだろうな』
『あぁ、そうだぜ。オプティマスはディセップの腕や顔だとかを容赦なく剥いじまう奴だ。人間相手だからそんなことはしないが、嫌いだったらとっくに見捨ててるさ』
『それに、君が寝込んだときに一番心配していたのはオプティマスだ。あの日の作業能率の悪さは著しかった。映像があるよ』
彼の部屋に行った時たまたま撮ったんだ、と笑いながら言うラチェットさん。近くの壁に映像を投影し始める。
オプティマスさんは書類の整理をしていた。判子を押したりサインをしたり、相変わらず大変そう。しかし彼の手はすぐに止まり、何か考えるような仕草をしては溜め息をつく。作業は進んでいない。やがてラチェットさんが声をかけると驚いたように振り返った。肩を大きく震わせて、突然出てきたお化けに驚くみたいな。ラチェットさんの「心配なのか」という問いに彼は「当然だ」と小さく返す。どこか弱々しく見えるのは自意識過剰かもしれない。
そこで映像は止められる。まだ続きはあるようだけど、だいたいの彼の様子は伺えた。確かに心配してくれているけど、それとこれとは話が別だ。好きかどうかはまた違う問題である。
『俺はオプティマスの気持ちは分からねぇが、たぶん、まぁ、不安なんじゃねぇかな』
「不安?」
『そう。だって、咲涼は体調が悪いときに伝えたんだろ? 病人の戯れ言って思ってる可能性もなくはねぇ』
「つ、つまり、本気に、してない」
『そういうことだ』
あぁ、やっぱり、まともな状況で言わなきゃ伝わらないのか。もしかするとまともな状況でも伝わらない可能性はなくはない。あのひとは意外と抜けたところがあるから……。
だが、私だって、普段から好きだと言えたらとっくに言っている。言えないからあの状況に任せたのであり、自己責任には違いない。
「どうしたら……」
『はっきり言うしかないだろ。それで唇にキスでも出来たら完璧だ』
「出来るわけない、そんな、勇気なんか……」
『あの晩はしたのにか』
「ラチェットさんってほんっとデリカシーない! もう嫌!」
私は泣きたくなって、うずくまった。自分でも分かってしまうくらい情緒が不安定だ。精神安定剤でも飲んだ方がいいんじゃないのか。
「ジャズになら出来る気がするのに……」
『それは光栄だな、一回してみるか?』
バイザーを上げて笑うジャズ。ほんとに出来そうな気がする。だけどそれは恋人だとかじゃなくて、気のいい兄と接するような温かみがあるからだ。 仮にジャズのことを好きになっていれば、彼とキスするなんて出来っこないのだろう。
「やだ、恥ずかしいし」
『俺からすれば問題ないだろ?』
「大アリでしょ! どう考えても! ねぇ? ラチェットさん」
『まぁ、ジャズとするなら私にもしてくれたっていいとは思うがね』
ふわりとウインクをしたジャズとラチェットさん。ふたりして何だ。「まさか、ふたりとも私のことが好きなの?」なんて都合のいい解釈は決してしないが、いくら何でも女たらしが過ぎる。彼らは性格がいいだけでは飽き足らず外見までもがカッコイイのだから、彼らのことを悪く思う女性はなかなか居ないだろう。人間からすれば彼らのロボットモードは怖いと感じることも、なくはないかもしれないが。
それから、何度だって言うがラチェットさんはデリカシーがない。わざとなのか天然なのか、どちらにせよタチが悪い。それも彼の性格だし、はっきり言ってしまえることは良いことだと思う。
「オプティマスさんのことが好きなのに、他の誰かとキスするわけないでしょ!」
『つまり、オプティマスならすると?』
『熱いねぇ』
「そんなわけ! ……ある」
『やっぱりな!』