デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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23.隠密行動也。
誰よりも感謝しなければならないのは、やはりオプティマスさんであった。もちろんアイアンハイドさんやラチェットさんにも感謝している。だがあのとき彼が見つけてくれなければどうなっていたか分からないし、色々と手配してくれたのは彼であったらしい。何かと迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ないと思っている。あんなことを言ってしまって、彼も会いたくないかもしれない。
──だから、こうして、格納庫にこっそり忍び込むなんて真似をしているのだ。
開け放たれていた重い鋼鉄の扉(開けたままにするなら扉の意味は無いのに)をくぐり、最低限の明かりのみがつけられる夜の格納庫に足を踏み入れる。昼間は職員やトランスフォーマーたちで騒がしいそこは、まるでホラーゲームに迷い込んだかのような薄暗い恐怖を感じる場所へと様変わりしていた。
それぞれがそれぞれの定位置に停車している。きれいに並んでいて、大きさは違えど圧巻の風景だ。
彼らは睡眠を必要とはしないそうだが、やはり彼らも生物。休息は大切だ。いわゆるスリープモードになることで似たような効果を得られると、ショックウェーブさんから聞いたことがある。だから夜の間はほとんどがスリープモードになり、体を休めていると。自然とスリープモードが解けることもあれば何かの衝撃で強制解除されることもあるそうだ。人間の睡眠とそっくり。
私はラチェットさんからゆっくり休むようにきつく言われている。だから本来こうして歩き回ることは決して許されないだろうし、見つかれば雷を落とされるに違いない。そうならないため、抜き足、差し足、忍び足で格納庫を進む。目標は赤と青のピータービルト。残り数メートル。
「オプティマスさん、起きてますか……?」
小さな声で呼びかける。返事はない。何度か呼びかけてみたが何も返ってこない。スリープモードはきちんと仕事をしているらしい。警備員とか職員とか、誰かが来てしまっては困る。言いたいことを言って戻ろう。
「ご迷惑をおかけしました。わたし、もう元気です。だから大丈夫です。聞こえてないと思いますけど……」
彼のフロント部分は、傷や汚れがたくさんあった。遠目に見ればピカピカのカッコイイ車にしか見えない。他のひとたちは洗車をさせてもらって、間近で見ることが出来たけど、彼のビークルモードをこんなにも近くでしっかり見たことは初めてだった。
オプティマスさんの手には無数の傷があった。体にも、顔にも、そしてビークルモードのときでさえ。彼が戦士であることは否定のしようがない。急に、胸が苦しくなった。
「わたし忘れたりしません。ほんとに好きなんだよ、信じてないでしょ。……寝てる人に何言っても仕方ないんだけど……」
面と向かって言えないから寝てる時を狙ってこうしてやってきた。しかし伝わらないなら実際、意味はない。
「……ごめんなさい」
精一杯背伸びをして、彼のオートボットシンボルの下にそっとキスをした。バレなきゃいい。バレなきゃなかったことと同じだ。そう自分に言い聞かせて。
「やばい……こんなこと……」
急激に顔が熱くなるのを感じる。先程までのつらい熱よりもずっとずっと熱い。倒れてしまいそうだ。
それからは、部屋に戻って布団に潜り込んだ。こんなにもリスキーなことをしたのは今までにない。それに調子に乗ってキスまでしてしまった。こっそり忍び込んでいたこともあって、後ろめたいのは間違いない。あぁ、なんでこんなことをしたのだろう。誰か見ていたらどうする? どうもできない!
彼への気持ちは本心だとしても、この行為は誠実ではないし、変態じみたことをするなんて……ありえない。
「昨晩はお楽しみだったようだな?」
今日はしっかりメガネをかけてマフラーを巻いたラチェットさんが、笑顔を携えて部屋にやってきた。その言葉は私の心臓をぎゅっと締め付け、笑顔が優しい意味合いでないと察する原因となる。
「あ、の……」
「部屋で休めと言っていたはずだが」
「す、すみません……」
バレていた。無断で出歩いたことが。もしかして全て見られていたのか。だとすればもう私は終わった。
「防犯カメラに君の姿が映っていたそうだ。まったく、困った奴だ。医者の言うことは聞いてくれ」
「ご、ごめんなさい。もうしません」
体温や心拍数の確認を始めるラチェットさん。それ以外に昨日のことは何も話さない。良かった、バレていなくて。
「日本人でもあんな大胆なことするんだな。驚いたよ」
笑うラチェットさん。あ ぁ も う 終 わ っ た 。