デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
What's your name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
21.嘘偽りなんかないわ。
今は何時だろうか。朝か夜かも分からない。ぼんやりしながら唯一時間を知る術であるスマホを探し、それらしき冷たさを見つけたものの、がしゃりと音がして消えた。床に落としたようだ。ロック画面の光がうっすら見える。あぁもう。
どこに行ったのか。光を辿れば見つかるはずだけど、案外分からない。もっと遠くかもしれない。思い切って乗り出して手を伸ばしたら、体がベッドからずり落ちてしまった。妙に鈍い音がした。肌寒い。戻らないと。スマホも見つからない。そこにあったはずなのに。頭が痛い。布団に潜りたい……。
「……! ……! おい! 咲涼!」
「ん……あ……オプティマス、さん?」
目が覚めて真っ先に見えたのは、切羽詰まったような彼の顔。さらりと揺れるオプティマスさんの青い髪がとても綺麗だ。まつげは長くて、唇は厚くて、物凄くカッコイイ。心を奪われてしまったみたいに体が動かない。
「オプティマスさんって、イケメン、ですよね」
「何を言っているんだ」
冷静に返されてしまって笑いそうになった。彼の前髪に手を伸ばすと、彼は少し怪訝そうな顔をした。わぁ、さらさらだ。私の髪よりも良い髪質なんじゃないだろうか。くせになりそう。
「すき、です」
そっと抱き起こして、床からベッドに移してくれていたオプティマスさん。驚いたように目を見開いてこちらを見ている。そんな顔しないでよ。
「すごくどきどきします……体が熱くなるんです……」
「気のせいだろう」
「これって、すきってこと、ですよね」
「違う……」
「ちがわないです、オプティマスさん、わたし……」
「咲涼!」
びくりと体が震えた。頭に彼の声が響いている。オプティマスさんは大きな声を誤魔化すように、優しく続けた。
「君は高熱が出ている。何もかもそのせいだ。しっかり休養をとれば治る。……医者を呼んでこよう」
「オプティマスさん……」
彼のコートを掴みたくても、力が入らずすり抜けた。行かないで、少しだけでいいの。どうせすぐに意識を失うように眠るのだから、それまでここに居てくれたっていいじゃない。ね、だから。
「まって……おねがい……」
「咲涼……君を泣かせたいわけではなかったんだ……すまない……頼む、泣かないでくれ」
泣いてなんかないよ。視界が歪むのは体調が優れないからだし、汗が出ているから目元が濡れてしまっていくだけだし、泣いてなんかない。
オプティマスさんは私の頬に手を当てて、親指で涙をぬぐった。私だって迷惑をかけたいわけじゃない、ただ、ほんの少しだけそこに居てほしい。話を聞いてほしい。あなたは忙しいひとだから、ずっとなんて言わない。だけど、これくらい許してよ。
「ほんとに、すき……オプティマスさんが、すき、なんです……」
いつだってあなたと話していたいし、あなたの洗車もさせてほしいし、私に出来ることなら何だってしたい。デートだって、あなたと行きたいの。ジャズやバンブルビーのことはすきだけど、本当はあなたと行けたらどれだけ幸せだろうって、思ってる。
だけどそんなこと、今になって面と向かって言うなんてできないよ。あなたが私をどう思ってるか分からないんだもの。あのとき言ってくれた好意は、本当に気の迷いだったかもしれない。私に優しくしてくれるのは、惰性だけかもしれない。そう思うととても怖くて。
熱があるかどうかなんて今の私には関係のないことだけど、勢いで言ってしまうしか伝える手段はなかった。
「咲涼……すまない……」
唇に柔らかい感触がした。自然と目を閉じてしまう。短くも長くも感じたその瞬間は、酷く心地がよかった。ずっと続いてもいい。その末酸欠で死ぬのなら、それも構わないと思えた。
「……忘れてくれ」
彼は足早に部屋を去っていった。私は布団を被り直して、いつの間にか戻っていたスマホを握る。特に何かすることもないのだが、ひんやりとしたスマホが私の熱を少しだけ奪っていった。しかし頬に当てたときは、熱を奪うどころかスマホがぬるくなってしまった。それほどの頬の熱はどこへ行くのだろう? しばらくここでくすぶり続けるはずだ。そして胸の痛みや頭に響く声と相まって、私を苦しめ続けるに違いない。
忘れられるわけない。いくら熱に浮かされているかといって、こんなに掻き乱されて覚えていられないはずない。
すき。ほんとにすき。彼の怒った顔も、悲しそうな顔も、困ったような顔も、笑った顔も、驚いて口を開いたちょっぴりおばかそうな顔も、全て。すきなんだ。
涙が出てきた。何が悲しいのか、何がつらいのか、自分でも分からない。だけど、涙が溢れた。