デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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19.輝くイエロー。
「……あれっ?」
次の日。今日は珍しく早起きをしたため、着替えを済ませ部屋の前でオプティマスさんを待っていた。昨夜のこともあるので緊張していたというか、気まずかったが、あのときの彼の様子はいたって普通に見えたので、私も気にしないことにしようと思っていた。
しかし実際にやってきたのは彼ではなく、バンブルビーだった。可愛らしく手を振る姿に口元が緩む。
『《Good morning》《朝の七時をお知らせします》』
「おはよう。今日はバンブルビーが来てくれたんだね。オプティマスさんは何かあったの?」
『《今日は彼は出張です》《ちょっと野暮用でな。お前はじっとしてろよ》』
野暮用って、どんな用なんだろう。平社員同然の私には話せないのだろうけど、出張とはつまり任務か何かで出掛けている、ということでいいはずだ。だけどオプティマスさんが任務に行くことなんてあるのだろうか。昨日彼は任務は自分でなくても行えると言っていた。その矢先に行くなんて……でも行かないとは言ってないのだ。行くことは少ない、というだけで。
『《なに、ただの私用さ》』
「えっ?」
カマロに変形したバンブルビーに乗り込み、シートベルトを締めたところで彼はそう言った。緩く発進して通路を進んでいく。
『《彼は滅多に手を出さない》《我々が居るからだ》《戦闘において彼の出る幕はないだろう》』
「敵と戦いに行ったわけじゃないってこと?」
『《その通りだ》』
正解だと言うように小さくクラクションを鳴らしたバンブルビー。それなら安心できる。怪我をして帰ってくることはないはずだから。しかし今度はどうして出掛けたのかが逆に気になる。オプティマスさんの私用って、なんだ。
それはバンブルビーも知らないようだった。オプティマスさんはすぐに戻ると言っていたらしく、他の仲間もどんな用か聞いていないそうで。トランスフォーマーがひとりで出掛けるため、レノックスさんには話が通されているようだがわざわざ聞くのもちょっと……。だって私は英語が話せないから、誰かを介して聞くことになる。好奇心でプライベートなことを聞くのも良くないし、興味本位で面倒なことをさせるのも申し訳ない。いっそ本人に聞いた方が清々しい。
「私もまた街に行きたいな。前はね、ジャズと行ったんだよ。楽しかった」
『《それは良い!》《私とも踊っていただけますか? お嬢さん》』
「バンブルビーと? 行きたいね! 次のお休みのときは一緒に出掛けようよ、都合が合えば、だけど……」
彼らトランスフォーマーは、突然任務が入ることもあるため、休みが正確に決まっているわけじゃない。仕事がなかった日が休みであり、出動した日が休みではない。それだけ。
『《そうしよう》《決まりだ!》』
次の私の休みも分からないけれど、毎日がより楽しくなるのには違いない。どうせ行くのなら、ヒューマンモードのバンブルビーに似合うような服を買ったりしたいな。彼はどちらかというと可愛い男の子、という雰囲気があるのだが、かっこいいものも似合うと思うし。まぁ私はファッションセンスなど皆無なんだけど……。
バンブルビーと行くのは楽しみだ。サイドスワイプやラチェットさんとも出掛けてみたい。だけど、これは何度も言っているかもしれないが、なんだかんだ一番過ごしている時間が長いのは彼らよりもオプティマスさんだ。だからどうしても、彼が一緒なのが当たり前で、そうでなきゃ落ち着かなくて……。彼が忙しいのは分かってる。だけどやっぱり行きたいと思ってしまうのは、駄目なことだろうか。
「……みんなと行きたいな、一回でいいから。アイアンハイドさんとかディーノさんは行ってくれなさそうだけど」
『《あぁいうやつに限って女に弱い》 ……《Maybe》』
「メイビー? たぶんってこと?」
たぶんなんて言われたら、それはもはや、確実に違うと言われたようなものだ。あのひとたちが女だからと言ってなびきそうにないのは確かだが。
特にディーノさんは人間嫌いだそうで、洗車のときも怖かった。殺す勢いだった。あのときはオプティマスさんの名前を出してしまったから従っただけで、本当なら触られるのも嫌みたい。
申し訳ないけどこちらも仕事。やってくれと言われたことはきっちり丁寧にする。それは働く者としてのプライドであり、当たり前のことだ。
「お仕事も楽しいから、全然出掛けられなくてもいいけど……」
『《ダメだ!》《デート!》』
「デート!? バンブルビーまでそんなこと!」
『《奴が言った》』
ジャズしか居ない。まさかとは思うけど、みんなにデートだって言ったわけじゃないよね? 仮に言っていたとしても、みんなだって本気にするわけではないだろうが、やはり恥ずかしさや気まずさなどが入り交じる。
「デートだなんて……」
できるなら、したいと思うよ。