デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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15.電話だって悪くない。
仕事を終えて、ぐっすり眠っていた真夜中。けたたましく鳴り響いたスマホに叩き起された。何か夢を見ていたかもしれない。温かな布団に包まれた気持ちのいい睡眠は即座に打ち切られ、寝ぼける間もなくスマホを手に取る。
アメリカに来て、以前から使っていたスマホをどうにか使えるようにしてもらったが、別に誰かと連絡をとるわけでもなくて……だからこうして誰かから何かがくるというのは久々のことだった。
「……もしもし……」
表示された名前を確認することもせずに電話に応答する。電話越しにでも聞こえるガヤガヤ声と、電話をかけてきた本人の大きな声が頭に響いた。
「え、うそ、久しぶりだね!?」
電話の相手は高校時代の友人だった。彼女は私と違って忙しいから、なかなか連絡をとりあうことなんてない。私も自分から関わりに行くような人間でもないし……。
どうして電話なんてしてきたのか問えば「あんたの家に遊びに行ったら、ただの野原になってたわ! あんたどこに居るのよ!」と。そういえば誰にも何も言わないで日本を出てしまった。少しメールを入れるくらいすれば良かった、と今さら後悔する。
いや、実はアメリカに……と言えば、当然「何でよ!」と言われてしまう。細かく説明するのは大変だ。トランスフォーマーのことも、何もかも。
根掘り葉掘り聞かれ、いつしかそれは雑談に変わっていき、気付いたら朝になりかけていた。今の日本が何時かは知らないけど、少なくとも私の睡眠時間が足りないのは明白だ。居眠りしないようにしなきゃ。
「じゃあね。……うん、そっちも元気でね」
スマホを投げ出して思い切り伸びをした。あぁ眠い。寝たい。今日が休みなら良かったのに。ゆっくりしたい。
「咲涼、朝だが……」
オプティマスさんの声。今行きます、ちょっと待ってください! まだ布団から出てすらいないんです……あぁどうしよう、出られる気がしない。布団と結婚してしまう……。
「咲涼?」
「わぁ! オプティマスさん! い、今起きます、から!」
返事すらしないことを不審に思ったのか、彼は遠慮なく部屋に入ってきていた。部屋を綺麗にしておいて良かった! 本当に。
私はただダラダラしていただけだけど、オプティマスさんは「具合が悪いのか」と心配してくれた。起こそうとした上体もやんわり戻される。あぁ! ちがうんです!
「医者を呼んでこよう」
「大丈夫です! あの、ちょっと、眠いだけです……!」
「本当か?」
「はい! だから仕事もちゃんとします、サボりは良くないですよね!」
着替えるから外で待っててください、と言えば彼は少し唸って部屋を出ていった。話し込んでしまったのが悪い。今度からは気を付けなければならないし、それで仕事に影響を出してしまうのもダメだ。
「すみません、お待たせしました」
『いいや、大丈夫だ』
いつもの様に彼の手に乗った。彼の手に乗って向かう先はいつも食堂で、彼には彼の仕事があるのにそんな面倒なことをさせて、申し訳ないとは思う。だけど彼がいいと言ってくれるしそれに甘えてしまうのだ。
「今日、友達から電話があったんです。全然会ってなかったんですけど、懐かしくてずっと話しちゃって、今も眠いんです」
電話は楽しい。こんなにも離れた距離で、目の前に居るかのような感覚で話せるのだから。いつまた電話が出来るか分からないけれど、そのときが楽しみだ。
「みんなとも電話が出来たら、任務に行ってても連絡できるのに」
そうしてゲームアプリもメールもしなくなったこのスマートフォンに使い道を与えるのも悪くない。そう思って小さく呟いただけだった。しかしトランスフォーマーというのは地獄耳で、そんな呟きも拾ってしまうらしい。
『何故、何の為に、電話をするのだ?』
「えっ! なぜ? 近くに居るみたいで、幸せな気持ちになる、から……?」
『……なるほど』
オプティマスさんは少し頷いた。納得してるのかしてないのか……私自身、なぜと言われても分からないのが正直なところ。文面よりは話す方がいいし、直接会うのがもちろん1番いい。でも、手紙などは、それはそれで趣がある。
私は苦手だけど。改めて述べようとして自分の感情などを言葉にするのは難しい。だから手紙は苦手だ。
『私も電話がしたい』
「どうやってですか? オプティマスさん、携帯電話持ってるんですか?」
『いいや。少し咲涼のスマートフォンを貸してくれるか』
言われるがまま愛用のスマホを渡す。彼は大きな指でそっとつまむと、目から不思議なレーザーを出した。『完了だ』と言った彼はそのままスマホを返してくれた。レーザーにさらされたスマホに異常はなさそうだが、これで何かが変わったのだろうか。
確認してみると、連絡先の一覧に見知らぬ人物の電話番号が入っていた。……いや、電話番号、というのは正しくない。確かに連絡先の欄にあるから電話番号なのだろうけど、名前の登録も無ければ、開いたところで電話番号もメールアドレスも表示されない。それなのにメールか電話かなどのボタンが現れるのだ。
『“私”の連絡先だ。登録しておいて損はないだろう』
「すごい……こんなことできちゃうんですね!」
そういえば、こちらに来てから初めて登録したのは彼だ。人自体は多いけれど、言葉が通じないから、どちらからも話しかけたりしないしそのおかげで仲良くもなっていかない。
オプティマスさん、と登録したその連絡先。何があっても消したくはないし、用もないのに電話をかけちゃいたいくらい嬉しかった。