デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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14.苦労は絶えそうにない。
バンブルビーは元気になって任務に行き、メガトロンさんは腕を繋いで格納庫へ戻って行った。メガトロン様と呼べ! なんて言われたけど、生憎私は彼の下僕ではないので、丁重にお断りした。
「なんでメガトロンさんの腕って取れちゃうの?」
『数年前、とある人物に腕をもぎ取られてしまってね。その影響でふとした拍子に外れてしまうんだ。もちろん、きちんと繋ぎ合わせてはいるが、いかんせん彼は戦闘でも激しく動きすぎる。自分も大変なんだから考えてほしいものだ』
「……とある人物って?」
『それは自分で考えてごらん。もっとも、彼と相対できる者はなかなか居ないがね』
アイアンハイドさんは武器のスペシャリストだから強いだろう。ジャズも将軍様だから強いはずだ。弱いひとが将軍なんて呼ばれたりしない。いや、でも、やっぱりオプティマスさんのはずだ。だって彼はオートボットのリーダーだもの。メガトロンさんはディセプティコンのリーダーだし、そんなひとと渡り合えるのはオプティマスさんだ。……たぶん。
『ところで咲涼。もうランチタイムだが、食堂に行くかい?』
「え! もうそんな時間?」
時計を見ると十二時過ぎ。確かにお腹がすいてきた。
『私はここに居るから行ってくるといい』
「じゃあ、行ってきます。早めに戻ってくるから!」
ラチェットさんは笑いながら『ゆっくり食べなさい』と言った。そんなに子供じゃないけれど、素直に返事をしておいた。
そういえば彼らは何歳なんだろうか? 私よりも年上だろうけど、詳しいことは分からない。やっぱりオプティマスさんが一番の年長なのかな? あとで聞いてみよう。ツインズは年下でもおかしくないなぁ。だってあの子たち、本当に可愛くて幼いし、あれなら私の方が大人っぽい気がする。ね、そうでしょ。
「咲涼!」
「ぅわっ!」
後ろから突撃された衝撃で倒れそうになったが、衝撃の原因である誰かが支えてくれたおかげで事なきを得た。
「サイドスワイプ!」
振り返ると少し長い銀髪が揺れて、屈託のない笑顔が現れた。あまりにも久々に会うから嬉しくなってしまう。だけど、後ろから抱きつかれてるみたいなこの状況は、恥ずかしいかも……!
「は、離れて」
「何でだ、感動の再会だろ」
「そんな大袈裟じゃ……いや、くっつきすぎだし!」
お前は彼氏かとツッコみたくなると同時に、私ってそんなに好かれてたの? と思わぬところでまた嬉しくなった。でもやっぱり離れてもらった。彼らは欧米のスキンシップに慣れているかもしれないが、日本ではハグもキスもしない。そこら辺の違いは分かってほしいものだ。
「これから昼飯か?」
「そうだよ」
「ふぅん、じゃあ行くか」
今までサイドスワイプは、医務室にやってくることはなかった。元々医務室なんてそうそう来るところでもないけど、何かと色んなひとが出入りしていたから、サイドスワイプが来ないことは不思議に思ってしまうほどだった。多忙なオプティマスさんでさえ来たのに。
私は学生時代、保健室にはほとんど行ったことがない。よほど怪我をした、などでなければ大概の人はそうだろう。だから保健室には人が滅多に行かず、言い方は悪いが暇な時間が多いと思っていた。しかし、医務室にただの雑談をしに来るひとも居るくらいだから、実際は忙しい仕事だったのかもしれない。
「ヨーロッパに任務に行ってた。敵は意外と多いみたいだ。……確実に倒してるはずなのに、減ってねぇ」
私は金属生命体の生殖の仕方は知らない。そもそも彼らが人間のように性行為をするようには思えないし、あんなハイテクな彼らがそんな非効率的な増え方をするのか、金属が子供を作れるのか、という謎が多すぎる。
サイドスワイプ曰く、オールスパークの力を使えばいくらでも増やせるそうだ。それが味方になるか敵の意志を持つかは別として。
「スタースクリームには会ったか?」
「ううん、まだ。なんか……せこいひとだよね?」
「そうだ! そいつは昔、俺たちみたいに人型でないにしろ、卵でディセップを増やしてたんだぜ。厳密にはちょっと違うらしいが、俺には分からないね」
卵って、鳥みたいだ。頑張って孵化させるのかな。私の中でスタースクリームさんは本当に嫌な奴の印象だったから、子育てみたいなことをしていたと思うとイメージが変わる。育メンってやつだろうか……。
「メガトロンがオートボットにつけば敵は減ると思ってたが、恐らく敵の中には、どうにかして仲間を増やしてる執念深い奴が居るんだろうな。メガトロンの話だと一年もあれば始末できそうな数だったのに、かれこれ四年はかかってる」
「つまり……その……メガトロンさんに付き従ってたわけじゃなくて、自分が世界を手に入れてやる! みたいなひとが居るってこと?」
「まぁ、そういうことだ」
今のところ大きな事件はないみたいだけど、その誰かさんが力をつけてやってきてしまったら怖い。個々の力は弱くても、集まると凄いのが数の暴力というものだ。
私がのうのうと過ごしていた裏側ではこんなにも大変なことが起こっていたのかと思うと、とても申し訳なく思った。……大抵の人間は、宇宙人が苦労していることなんて知る由もないんだけどね。