デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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11.果たしてデートか否か。
『咲涼。そろそろ休みが欲しくはないか?』
起きてから、食堂までの道をオプティマスさんと進むのが日課になっている朝。彼の手に座り込み、今日の朝ごはんは何かなぁなんて考えていた私に、突然オプティマスさんが投げかけてきた。
「休み?」
『あぁ。ここに来てからと言うもの、ずっと働き詰めだろう。休息が必要なはずだ。体調を崩してからでは遅い』
オプティマスさんの言うことはもっともだ。日本を離れて一週間は経つが、確かに休日というのはなかった。けれどつらさなどはない。色んなひとと話して、新しいことを知って、そうするうちに一日が終わる。以前よりも充実した楽しい日々だ。
むしろ、今くらいが新鮮でちょうどいい。覚えることがたくさんあって忙しいのもまた、幸福感がある。
「でも、せっかく休みを貰ったって、することないです」
『街にでも出掛けるといい。ジャズも一段落したようだから、彼なら同行してくれるはずだ』
あぁ、オプティマスさんじゃないんだ。なんだか彼と一緒に居るのが当たり前のようになっているから、つい思い込みをしてしまった。当然だ、オプティマスさんは司令官なんだもの。私なんかに付き合えるほど暇ではない。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「これってデートだよな」
良さげな服はないかと店を回り、数軒目。彼は彼で服を見ていたジャズさんが、不意に私の所へやってきて、そんなことを吐いた。
「ただのお買い物じゃないですか」
「男女が一緒に出歩いたらデートなんだよ!」
そんな乙女みたいなこと、と言いかけたが飲み込んだ。確かにそうかもしれない。私とジャズさんとで釣り合っていなかったとしても、年頃の(かどうかはイマイチだが)男女が並んでいれば、「あれ、カップル?」となりかねない。そもそもジャズさんが乙女なんじゃなく私に女らしさがないだけだ。
「じゃあ、デートだったら何かあるんですか?手とか繋ぎますか?」
「いいな、それ。恋人繋ぎしようぜ」
「え! 冗談ですよ! やだ! しない!」
ジャズさんは嫌いじゃないが、あまりにもカッコよすぎて触れるなんてできない。彼の本来の姿ならできるだろうけど、人間の姿だと抵抗がある。
ここまで来るのに、彼のビークルモード、ソルスティスに乗せてもらった。通訳もかねて、とヒューマンモードで街案内をしてくれるジャズさんだったが、そりゃあもう女の人の視線は釘付け。もちろん私なんて目に入っていないだろうし、仮に気付かれたときには「なに?あのアジア人。釣り合ってないわ」と軽蔑されるに違いない。
そんな彼なら逆ナンされてもおかしくないのに、今のところ全くされていないのは、ヒューマンモードでもつけているバイザーのせいか。カッコイイけれど、目が隠されているのは何となく恐ろしさを感じる。目は口ほどに物を言うと言われるし、そこから感情を受け取ることもあるわけで。何を考えているのか分かりづらいから話しかけづらいというのはあるだろう。
「なぁ! 少しだけ! な!」
「なんで!」
「ちょっとしてみたいだけなんだ! こんなこと咲涼にしか頼めないだろ!?」
レノックスと恋人繋ぎしてみろ、気持ち悪いじゃねぇか! と言われ、一瞬でも想像した自分を恨んだ。レノックスさんもカッコイイ人だ。妻子を大事にするいいパパだ。だからこそ彼らが恋人繋ぎをしているのは絵面がやばい。
レノックスさんでなくても同じだ。例えばラチェットさんとジャズさんが恋人繋ぎをしていたら? 彼らの性格などを知っている手前、もはや笑うことしか出来ない。もちろん、どんな恋愛の形も否定するつもりなどないということは分かってほしいのだけれど。やっぱり彼らでは考えられない。
「じゃあ、あんまり人が居ない所で、さりげなくジャズさんから繋いでくださいよ。いざ手を繋ぐってなると恥ずかしいですから」
「分かった! さりげなく、な」
何着か服を購入し、雑貨店に入ったり散歩中の犬と触れ合ったりして、最終的に休憩がてら日本でも有名なコーヒーショップに寄った。少なくとも私が居た地域にあるようなお店ではなかったし、お高いイメージもある。だからはいるのは抵抗があった。何を隠そう、私はここに来るのは初めてである。
注文はジャズさんに任せた。呪文を唱えるのは難しい。
「俺もあんまり来たことはないんだ。ちゃんと頼めてたか不安だな」
「あ!」
私にカップを差し出しながら笑うジャズさん。私は小さく声をあげて固まってしまう。
彼は何も食べることができない。ここに来て満足するのは私だけ。カフェに寄ることになったのはジャズさんが提案してくれたからだった。彼は私を気遣ってくれたのに、私は何の気遣いも出来ていない。
「あの、私だけすみません……ジャズさんは何も飲めないのに……」
「悪い、俺もそんなつもりで言ったんじゃないんだ……だいたい、俺の前でも飯は普通に食べてたじゃねぇか! せっかくのデートだろ、変なこと気にすんなって」
デートという言葉に今度は背中がむずむずした。これはただの買い物だけど、どこか特別な気がしてくる。とても楽しくて、いつまでもこんな時間が続けばいいとさえ思った。反対に、早く帰ってゆっくり話したい、とも思った。