デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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9.ここでの存在意義。
金属生命体という非人間的生物に出会って数日が経った。仕事は相変わらず車の整備だけだが、適材適所という言葉もあるし、不満はない。
通訳はずっとサイドスワイプが行ってくれていた。しかし、彼らと私が関わることは本当に稀で、つまりはサイドスワイプの出る幕は滅多になく、彼は一日中ヒマ……ということが多かった。むしろ毎日そうだった。だから私は暇つぶしに付き合い、仕事をしながらも彼と話してばかりで、金属生命体についての知識がたくさん身についた。
例えば彼らも私たちのように自己修復できること。見た目があまりにも機械なものだから、溶接などをしないと修復できないイメージだった。
例えば質量が同じくらいであればどんなものもスキャンし、変形できること。変形すればそのものの機能を使うことだってできて、とにかく凄い。昔スキャンしたものに再変形することも可能。何度か見せてもらったけど、やっぱり彼はコルベットが一番カッコイイ気がした。
その他にも……まぁ色々聞いた。取るに足らない話もたくさんあった。私は彼らのことをよく知らなかったけど、彼は私たち人間のことをよく知っていた。だから彼が話すばかりで、サイドスワイプはつまらなかったかもしれない。
『いや、サイドスワイプのことだ。ネガティブなことは特に何も考えていないだろう。あいつは今、きっとこう思っている。“咲涼と話せなくなって寂しい”とね』
ラチェットさんは大きな大きなスパナをくるくる回しながら言った。
今日は軍医である彼に呼ばれ、医務室にやって来ていた。何をするのかと思えばアイアンハイドさんの装備を変える手伝いをしてほしいとのこと。断る理由はない。快諾した私だったが、人間なんかが役に立つだろうか。不安に思いながらも医務室に居座ることにした。
「そうでしょうか」
『あぁ。あいつとは何年もの付き合いがあるから分かる。だが念のため聞こう。師匠としてはどう思う、アイアンハイド?』
身体にいくつかのコードを繋がれたアイアンハイドさん(ちなみにそのコードは私が頼まれて繋げた。どうだ、偉いだろう!)は、顔を少しだけ動かした。そしてはっきり言う。
『否定するところが全くないな』
アイアンハイドさんから駆動音が聞こえたかと思えば、ラジオのように会話が聞こえてきた。それはサイドスワイプとジャズさんの声で、サイドスワイプはかなり荒ぶっているようだ。
《何で今日はラチェットの所なんだ! また色んな話をしようと思ってたのに!》
《仕方ないだろ、咲涼には色々と覚えてもらわなきゃいけねぇんだ》
《だけど! 咲涼と話せないなんて! 俺!》
《寂しいとか言うなよ》
《ぐぅっ……》
ぶつり、と途切れた音声。ラチェットさんは大きく笑って、『言った通りだろう?』と自慢げに言う。私としては恥ずかしい気持ちでもあるし、当然嬉しくもある。最後の唸り声は図星だったんだろうなぁと思うと、サイドスワイプが可愛く思えてきた。
私も彼と話す毎日が当たり前のように思えていたし、彼の楽しい話が聞けないのは寂しい。だけど別にもう会えないわけじゃない。それに私は、ラチェットさんと居ることで得る知識にも興味がある。
やっぱり好奇心と知識欲には負けてしまう……ごめん!
「あの、今ジャズさんが、私に色々覚えてもらわなきゃいけないって言ってましたけど……」
『あぁ、そのことか。なに、大したことではないんだがね』
道具をしまい、コードを抜き始めるラチェットさん。やることは全て終了したようだ。私も急いでアイアンハイドさんの足元へ向かい、馬鹿みたいに太いそれを力いっぱい引き抜いた。彼らにとっては細くても、人間には土管のように太い。……いや、それはさすがに盛りすぎた。
『我々のことは、全般的に君に任せたいのだよ。例えばこうして医務作業の手伝いをしたり、ビークルモード時のメンテナンスなんかもやってほしい。メカニック自体は他にも五万といるが、いかんせん任せられそうな人物は居なくてな……まぁ……そう、つまりは、君にトランスフォーマー専門メカニックになってほしいわけだ』
初めてはっきりと仕事を言われたかもしれない。ずっと無理矢理作ったみたいな仕事をやらされていて結局何の為に来ていたのか分からなかった。一番最初にオプティマスさんに言われたのも「君の力を貸してほしい」だったはず。
はっきりと何故ここに来たのかを言われたのは、多分初めてだ。
『じきにオプティマスから、きちんと話が通るだろう』
「……私、絶対やります」
この世の中に、トランスフォーマー専用メカニックだなんて、他に居るだろうか。いいや居ないはずだ。私なんかの技術は陳腐なものかもしれないし、私以上に整備士としての力がある人は沢山いるだろう。だけど私が選ばれた。ならば精一杯の力をもって返すしかない。
『いいのか? こう言ってはなんだが、雑用のような仕事も押し付けられてしまうかもしれないよ』
「えー……じゃあ逆に、拒否権ってあるんですか?」
『ないよ』
悪戯っぽく笑うラチェットさんに、私も笑って返すしかなかった。