デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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8.彼にとっての我々は。
「何かあったのか?」
午後の作業中。どうにも気分が乗らなかった。憂鬱に近いかもしれない。それは当然、昼のオプティマスさんとの会話が原因だった。嫌だったとかじゃなく、何というか……こんなことがあっていいのか、と。
「……昼間、いつの間に居なくなったの」
「あぁ、あれは、呼ばれたんだ。知り合いに」
「ニヤニヤしながら言わないでよね」
思わず溜め息をつくと、サイドスワイプは面白いとでも言うように高らかに笑った。他の人達はちらりと見た後、「あぁ、あいつね」みたいな顔をして作業に戻っていった。
それぞれの仕事がある、というのもあるけれど、彼らは全くこちらにやって来なかった。時々様子をうかがうように、というか……奇妙なものを見るような目で見てくるくらいだ。日本人は初めて見たのか? ってくらい。
それともトランスフォーマーの近くに居る事がおかしいのか? 彼らは確実に特別な存在だし、事情もよく知らない新入りの女なんかが一緒に居てはいけない気がする。
「オプティマスは何だって?」
「別に、なにも」
「気になるね」
誰かに言うことではないし、言いたくもない。サイドスワイプは特にやばそうだ。毎日何か言ってきそう。イメージだけど。
「咲涼」
「お、オプティマスさん。お仕事は終わったんですか?」
「いや、まだだが……時間はある」
君は仕事はどうだった? と聞かれ、曖昧に頷いた。仕事自体に問題はない。車の整備は純粋に楽しいし、自分の腕を発揮できる唯一の場面だ。むしろそれのために私が連れてこられたんだから、存分にやらせて頂きたいと思う。
気になるのは当然、先輩方だ。彼らは彼らで車とは違うものを整備しているようだった。何なのかは分からないが、とにかく大きな機械を。車の近くにそんな機械があっていいものかと思うが、まぁいいのだろう。
彼らと関わるのは難儀だった。初めての空間で慣れていないこともあるが、少なくとも歓迎ムードではない。目が怖かった。時間が解決してくれることを祈るしかないのかな。
「そのうち、慣れると思うので」
「無理はしないでくれ。半ば強制的に連れてきたようなものなのだから」
やっぱり優しい。オプティマスさんは機械なのに人間よりも優しいところがある。とても不思議だ。
「オプティマスさんは人間の食べ物は摂取できないんですよね?」
「あぁ。我々はエネルゴンというものを摂取する。物質からエネルギーを抽出し、キューブにして食べるのが基本だが、いわゆる酒のようなものもある。エネルゴンは研究員に作ってもらってはいるが、なかなか口に出来ない代物だ」
なんでも出来ちゃうトランスフォーマーも、さすがにエネルギーを抽出、なんてことは出来ないのか。それができればきっと楽なのに。
「毎日食べれないんですか?」
「そうだな……我々は人間のように毎日食べなくても、ある程度は生きていられる。余程でない限りは餓死しない」
なんて燃費がいい。私は寝坊して朝ごはんを抜いただけでもへろへろなのに。どれくらいの期間かは知らないけれど羨ましい。
だけど、エネルギーを直接摂取するみたいなものだろう。果たして美味しいのだろうか? 私たちは食物からエネルギーをとっているけど、エネルギーに味があるわけじゃないだろうし……まぁカロリーが高いものに限って物凄く美味しかったりはする。美味しいから食べてしまう。
「人間の食べ物を食べられたら良かったのに……」
「私も君達の食文化には非常に興味がある。しかし、ヒューマンモードはかなり無理をして作られたものだ。変形することで破損するような危険性などはないが、さすがに消化器官までもを再現することはできない」
残念だ。それができたら、一緒に食事を楽しめたかもしれない。昨日のように彼が何も口にしていない横で、のうのうとご飯を食べるなんて、なんだか悲しい。
それはどのトランスフォーマーにも言えることで、今日はサイドスワイプが隣に居てくれたが、彼だって何も食べていない。私にどうこう出来る問題ではないけど、どうにかならないのかと考えてしまう。
「しかし私はこの姿に満足している。人間の街を歩き、人間の日常に触れることができる。それはとても素晴らしいことだ」
嬉しそうに、少しだけ微笑んだ。彼はきっと人間が好きなのだ。だから故郷でもなんでもない地球に居られるし、こうやって笑うことができるんだろう。嫌いなら敵の残党なんかそのままにして、さっさとどこかへ行ってしまえばいい。そうしないと言うことは、そういうことなんだ。
「そうだ、咲涼。ここから数分の所に街があるのだが、いずれそこを案内しよう」
もちろん、友人としてだ。と小さく付け足すオプティマスさん。私はちょっとだけ苦笑いをして、断る理由はないと大きく頷いた。