デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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7.突然すぎやしませんか?
食事をする私の隣で、サイドスワイプは色んな話をしてくれた。昔戦った敵のこと、仲間のこと、地球に来てからのこと。私は食べながらだったから頷くだけだったけど、それでもサイドスワイプは楽しそうに話してくれている。
私も楽しかった。金属生命体というのは何もかもが新鮮で、本当に面白い。宇宙には他にも色んな生物が居るんじゃないかと思わせる。
「トランスフォーマーにも、好きな人とか出来たりするの?」
「そりゃあ生きてるからな! 好き嫌いぐらいあるさ」
「へー! じゃあサイドスワイプのタイプは?」
「なんだ? 気になるか? 俺のこと好きになった?」
ニヤニヤとしたその顔がムカついて、思いきりサイドスワイプの肩を叩いた。嫌いじゃないけど、好きだなんて言うほどじゃない。それなりに仲良くなっててもお互いのことを知っているわけではないし。
「オプティマスさんの方が好きですー!」
「ふーん、なんでだ?」
「えーと、色々と助けてくれたりとか……あと、手がすっごい大きい!」
「なんだそれ」
「とにかくかっこいいの! サイドスワイプには分かんないかもね!」
彼の手の大きさは、乗ってみて初めて分かる。誰かの手に乗るなんて経験は普通じゃありえないし、何だか怖い気さえしてしまうけど、オプティマスさんの手にはずっと乗っていたい……ような気もする。
大きくて安心するというか……。まさに大きい、いや大きすぎるのだけれど。
「そもそも同性だしなぁ」
「まぁ……確かに。オプティマスさんの魅力は私だけ分かってれば良いんだよね!」
「言うねぇ!」
はは、と軽く笑って立ち上がった。水を取りに行こうと思ったからだ。しかし人にぶつかってしまって、慌てて謝る。日本語が通じるはずはないのに。
「すみません!」
「いや……」
帰ってきた日本語に驚いて見れば、ぶつかった相手は人間になったオプティマスさんだった。何でオプティマスさんが? 彼らは食事はしないと聞いていたから、ここに来ることはないだろうと思っていたのに! だからあれやこれやと話していたのに!
「え、いつから……サイドスワイプは気づいてたの……?」
「あぁ、まぁな。俺のタイプがどうとかって辺りから居たぜ」
「う、うそ! なんで言ってくれなかったの!」
それなら言って欲しかった。そりゃあサイドスワイプには私が何を話し始めるかなんて分からないだろうけど、居るって分かっていればあんな話はしなかった。だいたい、何でオプティマスさんも話しかけてこないんだ。偶然見掛けたなら一言くらい声をかけてもいいだろう。それで混ざってくればいい。訳が分からない。
会って二日目のひとの魅力だなんだなんて、本人に言えるようなことじゃないのに。恥ずかしさと、一人だけ気付いていなかった馬鹿らしさとで、顔が紅潮した。
「あの、さっきのは、違うんです、その……」
「咲涼」
彼は私を座らせて、同様に自分も椅子に座った。ふんわり手を握られてドキッとする。革の手袋越しに金属の冷たさを感じた。
「交際を申し込む。私も咲涼が好きだ」
「えっ!」
嘘でしょ? 冗談もほどほどにしてよ!
周りを見回しても、皆「なんだ?何やってるんだ?」というような目で見てくるばかりで、助けてくれそうになかった。当然だ。日本語は通じないんだから! 強いて言えば、司令官と新入りの日本人の手が触れ合ってる状況はおかしいことくらいしか分からないだろう!
「交際って、お付き合いってこと、ですか?」
「あぁ」
「そのー、恋人、とか?」
「あぁ」
唯一の頼りであったサイドスワイプもいつの間にか消えた。オプティマスさんは手を離してくれそうにない。手を動かそうにもビクともしないのだ。この状況を一人で打開するなんて到底無理。どうしよう。
「あの、あの……えっと……」
少女漫画ではどうしていたんだろう。そもそも少女漫画ではこういう状況になるのは好きな人同士で、今の私たちとは違う。参考にはならなそうだ。
いや、私も彼のことは好きだが、恋愛的な意味ではないと思う。まだ彼のこともよく知らないし……好きだとかは……。そうだ!
「お友達! お友達から始めましょう! オプティマスさんの気持ちは気の所為かもしれません! お互いのことをもっとよく知って、それからでも大丈夫だと思います! ね! そうしましょ!」
「……咲涼がそう言うのなら」
早口でまくし立てれば、渋々と言った様子で頷いた。わぁ! やったぁ!
「友人ならば、敬語も敬称も必要ないな?」
「えっ、あー、そ、そうですね! でも急に外すのは難しいかもしれないです!」
いつかそうしたいですね! と頷いた。オプティマスさんは司令官だ。すごいひとなのだ。呼び捨てなんてできるはずない。……いや、サイドスワイプもすごいひとかもしれないが、彼らは決定的に何かが違う。
「これからは、可能な限り話をしよう」
そう言ったオプティマスさん。私は、大変なことになってしまった、と密かに頭を抱えた。