デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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3.美味しい食事と。
部屋は想像よりも広く、設備も整っていた。ふかふかのベッドや棚、小さいながらもテレビまでつけていただいて……こんな良くしてもらっていいのだろうかというほど。
次にやってきた食堂も広い。ここに所属する人が使うから当然といえば当然だけれど、それにしたって広すぎるくらいだ。驚きを隠せずにいたが、ひとまず美味しいというカレーライスをもらい、席について食事を始めた。
「オプティマスさんは、何も食べないんですか?」
「あぁ。我々は金属だからな、人間の食べ物は摂取できない」
そうなんですか、と返し、私はまたカレーを口に含む。特に何を話すわけでもないから少し気まずい。それに、食べる私をオプティマスさんはずっと見てくる。そんな面白いものでもないだろうに。
「あの、オプティマスさん、そんなに見られると食べづらいです……」
「……すまない」
謝るオプティマスさんだが、見てくる事はやめないようだ。オプティマスさんも何か食べれたら一緒に食事ができたのに。だけど彼は司令官だから、かなりお偉いさんなのだろうし、そんな人と食事なんて緊張してしまう。いや、今の状況だって緊張するじゃないか。なんで私は司令官と一緒に居るんだろうか。気づけば彼と共に居るのが当たり前のような感じだけど、これって普通じゃないんじゃないか。
「司令官はお仕事とか大丈夫ですか? 私なんかについてて」
「問題ない。私が望んだことだ」
「そう、ですか?」
「そうだ」
私がまた食事を進めると、彼は満足げに頷いた。あぁ無駄に顔がいい。彼が人間じゃないなんて信じられない。街行く人に「彼は本当は何メートルもの高さの金属生命体なんだよ」なんて言ったら誰が信じるだろう。なんでもないことのように受け止められている自分にも驚きだ。
ふと周りを見まわすと、一部の人がこちらを見ていることに気が付いた。ヒソヒソ話をしているようだ。内容は司令官と一緒に居ることか、アジア人が居ることか、女が居ることか……全部かもしれない。
こんな場所に私がいるのはかなり場違いで、おかしなことだろう。いまのところ黄色人種は見かけないし、女はあまりエンジニア系の仕事には就かないし。
でも私はこの仕事が好きだ。私が修理業を営むようになったのは、父が車に関する仕事だったから、という理由が大きいが、何より車が好きになったからだった。
最初はそれこそ父の仕事がきっかけだ。しかしちょっと興味をもって調べたことから、だんだんのめり込んでいって、こうして車に触れ合う仕事が出来ている。嬉しくて、楽しくて、何にも変え難い日々だった。好きなものを仕事にすると嫌になる、と聞いたことがあるが、私の場合は違った。そりゃあ投げ出したくなることもあったけど、自分がやりたくてこの道を選んだわけだし、逃げ出すなんて過去の自分に負けた気がして嫌だった。
「咲涼! さっきぶりだな!」
「っ!?」
後ろから肩を叩かれ、あまりの痛さに声も出なかった。これ、骨折れてない? 大丈夫?
「ジャズさん……痛いんですけど……!」
「マジか? 手加減したつもりだったんだけどな」
「これで? やば……力加減バカすぎでしょ……」
隣に腰掛けたジャズさんはケラケラ笑っていたが、私にとっては笑い事じゃない。ジャズさんは金属だからこの程度の痛みなんて大したことないかもしれないけど、私は金属で出来てるわけじゃない。
「骨折れてたらお金貰いますから」
「……や、折れてないみたいだぜ、良かったな」
バイザーの奥がピピッと光ったと思えば、ジャズさんはそんなことを言った。
「何で分かるんですか?」
「ま、俺達は金属生命体だからな、人の体をスキャンして色々知ることだって出来るんだよ。サーモグラフィーなんかもちょちょいのちょいさ」
「今どきちょちょいのちょいとか言いませんよ」
ごちそうさま! と手を合わせる。美味しいって言われたからカレーにしたけど、口臭やばくないかな。こういうのを食べる前に気付けないのが女らしさがないというか悪いところというか……それが私なのだと言えばそうなのかもしれないけれど。
「Jazz.」
「Well……Okay, okay.」
ジャズさんはバイザーを外しウインクを飛ばして去っていった。カッコイイ。彼がアイドルだったら私は推してたに違いない。うちわもペンライトも振っていただろう。
不思議に思ってオプティマスさんの方を見た。彼は少しだけ眉間にシワを寄せていたが、私の視線に気付くと誤魔化すように微笑んだ。
「ジャズは仕事があるそうだ」
「そうなんですか……」
ジャズさんと話すのは楽しい。初対面だから変に気を使うとか、変にいびるとか、そんな嫌な感じがしない。純粋にいい人だ。
「さて、咲涼。この後も忙しいぞ。次は医務室だ。軍医を紹介しよう」