デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
ひどい病気には思い切った処置を。
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1.晴天の霹靂。
がらんとした室内で、私はぐっと背伸びをした。やる気を出すための背伸びではなく、暇をもてあまし固くなった体を労るためだ。手に馴染んだ工具はだいぶ古くなっているが、それでもまだまだ現役。あったら便利だろうと新しく買ったものもある。この子達を活躍させたくても、仕事がなければ不可能だ。
最後に仕事の依頼が来たのはいつだろう? 大きい案件は半年ほど前かもしれない。普段は近所のご老人たちくらいしかお客はいないし、ごくごく稀によその人が来たとしても、大した用ではない。ちょっとエンジンの調子が悪そうで……タイヤがパンクしちゃったみたいで……こういうへこみって直りますかね……。
それに比べて半年前の車ときたら。日本ではなかなか見ない青と赤の派手目なトレーラートラック。炎のような模様がかっこいい、と思っていたらアメリカの車だった。どうしたのかは知らないが、見事なまでに部品が取れていた。言葉にするのは難しいのだが……プラモデルを組み立てる途中であるかのような、おかしな部品たちの取れ方。車を組み立て直してくれ、とでも言うような依頼に、私は手をこまねいた。
たかだか修理業をおこなう私にこんなことできるわけない。どうすればいいのだ? 悩んだ結果、様々な車製造会社に電話し、協力を依頼した。
なんだかんだで車は元に戻ったし、運転手らしき外国人の男性も喜んでいたし、初めての体験で楽しかった。
本当は、最初は廃車にすべきだと言ったのだ。しかし彼は絶対に首を縦に振らなかった。それはできない、と。金ならいくらでも払う……なんて言われたら頑張るしかあるまい。まぁ私は英語が分からないので、雰囲気で感じ取っただけなのだが。
実際のちにかなりの金額が支払われたし、あながち間違いじゃなかったかもしれない。
「暇だぁ」
マジで仕事がない。どうすればいいんだ。いっそ車の改造でもしようか。公道は走れないけど。
「Hello.」
「は、ハロー?」
誰かと思えば、例の外国人だ。あぁ、英語でいらっしゃいませってなんて言うんだっけ? 外人を相手にすることなんてないから分からない。メイ、アイ……? もういいや。
「I just need to mention something.」
「ニード……さ、さむ……?」
「Let me see……, Can you speak English?」
「キャン……ノット?」
「Oh……」
困ったな、とでも言いたげな男性。ごめんなさい、英語しゃべれなくて……勉強しようかな……。
苦笑いを残してどこかに行った男性は、数分もせずに戻ってきた。もう一人、これまた外国人の男性をつれて。また外人? と思うよりも先に、その身長に驚いた。青いコートに身を包んだ彼は、二メートルはあろうかというくらい大きく、日本人では絶対に居ない青い髪も特徴的だ。
「あ……」
「安心してくれ、私は日本語で大丈夫だ」
「あ、良かった……!」
安心したのも束の間。一体全体、どうして彼らがこんなところにやってきたのか? そもそも誰なの。
そんな私の心中を察したかのように、青いコートの男性が話し始めた。
「突然で申し訳ない。我々はとある組織に所属しているのだが、今回君をスカウトしに来たのだ。詳しい話はここではできない。しかし仲間になってくれるというのなら、我々と共に来て欲しい。君の力が必要だ」
簡単にはいと頷けるはずなかった。しっかり説明しているようで全く理解できないし、スカウトって言われたって、こんなしがない修理業やってる私にできることなんて、何があるのだ。
突然きて事情も話さずに仲間になってくれ、って意味がわからない。ここでの生活は暇で時間を持て余す日々だとしても、訳の分からないことに首を突っ込むより楽しい。正当な理由だとかを述べるのが筋ってもんじゃないか。
「名乗りもしないような礼儀知らずな方々に貸せる力なんて、私にはありません……」
男性は少し顔を歪めて口を開いた。そのとき、強烈な揺れを感じてとっさに壁に手をついた。地震だろうか。ここら辺の地域は確かに地震が多いけど、こんな大きいのは初めて。棚に置いてあったものはぐちゃぐちゃに落ちていくし、床はきしんで、屋根が崩れて青空が……青空が? 地震で崩れるほどボロい家じゃないでしょ。どういうことなの。
何か呟いた青いコートの男性が、次の瞬間には消えていた。そして同じ場所には大きな大きな金属の塊。巨人、みたいな……ゆっくり動いたそれは、私ともう一人の男性を持ち上げて歩き出す。
今まで経験したことのない高さの眺望。隣に居る男性は頭を抱えてため息をついていた。私たちを持った巨人は、銀色の、よく分からない物体と格闘しているようだ。しかしすぐに決着はついた。ぐったりと倒れ込むように動かなくなった銀の物体を尻目に、私たちは地面へ降ろされる。
『申し遅れた。私はオプティマス・プライム。オートボットの総司令官だ』
こんな出来事が、私の人生にとってターニングポイントとならないわけが、なかったのだった。
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