デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
電王【短編】
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少しは釣られる気分を味わいやがれ!
デンライナーに乗るようになって、イマジン達と関わるようになって、ずっと気になっていることがある。大したことではないけど、好奇心は大きいというか。
「──はい、先輩。コーヒーです」
時の列車では各々が好き勝手に過ごしていた。
モモタロスは暇そうに知恵の輪をカチャカチャして、キンタロスは相変わらず冬眠。いびきがうるさいのなんのって!
リュウタロスは熱心にお絵かき。今は良太郎を描いてるみたい。やっつけなきゃいけない、なんて言ってたことが懐かしいくらい、あの頃のリュウタロスは見る影もない。
ハナちゃんはお出かけ中。ミルクディッパーで美味しいコーヒーを飲んでいるんだろう。
私は今日はゆっくりしようと思って、最近買った小説を読んでいた。
そんな車内で、ウラタロスはモモタロスへコーヒーを差し出した。モモタロスは「殊勝だねぇ」なんて機嫌が良さそうにカップを受け取った。ばーか。
「モモタロス、それワサビ入ってるよ」
私の言葉に、モモタロスは動きを止めてコーヒーと私を交互に見た。
「マジかよ?」
「マジ」
「カメ、てめぇッ!」
モモタロスはウラタロスに掴みかかる。リュウタロスはクレヨンを置いて手を叩き「ケンカだー!」と盛り上がった。リュウタロスってほんと好きだよね、人の喧嘩。
嘘つきな後輩くんはと言うと、怒りが溢れ出ている先輩など気にした様子もなく私を見やった。
「も〜、咲涼、何で言っちゃうのさ?」
「そりゃ言うでしょ!」
いつぞやみたいに気持ち悪いモモタロスなんて見たくないよ。紳士的なのは悪いことじゃないけど、モモタロスが変な喋り方するのは……ほんと、鳥肌が立つ。
モモタロスは乱暴者でいいの。口調は荒くたって優しさは本物だからね。
「……ウラタロスが飲んだらいいんじゃない?」
せっかく作ってくれたコーヒーを捨てるのももったいないし、モモタロスには飲ませられないし。キンタロスに飲ませれば“Shall we dance?”なんて言い出すからダメ。リュウタロスは……どうなるんだろう。気になるけれど、また今度。
「ウラタロスが責任取って飲むのがいいと思うな〜」
モモタロスは「咲涼の言う通りだぜ!」と何度か頷いた。
私がイマジン達と関わるようになって、ずっと気になっていること。それはウラタロスが辛いものを摂ったらどうなるのか? ってこと。
モモタロスは普段の暴走が鳴りを潜めて、ちょっと変な紳士になる。キンタロスはいつものどっしりとした男らしさが控えめになってキザに。
だったらウラタロスは?
いつも穏やかで女の子相手にかっこつけてるウラタロスは、一体どんな風に変わるんだろう?
ウラタロスは珍しく目を泳がせた。
「いや、僕は……」
「捨てたらナオミちゃん、悲しむだろうな〜」
ね、ナオミちゃん? と私が聞くと、彼女は「せっかく作ったのに捨てちゃうんですかぁ!?」とそれはそれはショックを受けた顔をした。泣き真似をおまけに。
「ウラタロスが頼んだコーヒーでしょ? それとも女の子を泣かせる趣味があったりする?」
「そんなわけないでしょ! 分かった、分かったから! 飲めばいいんだよね!?」
ウラタロスはカップを手にした。クリームの浮かぶそれをじっと見つめ、やがて覚悟を決めたように口をつける。そしてまだ熱いであろうコーヒーを一気に飲み干した。
「お〜、カメちゃんやるぅ」
「俺でも一気飲みなんかしねーぞ」
リュウタロスとモモタロスがそれぞれ感心したような声を出す。私もちょっと驚いた。そんなところで男を見せるなんて。
「……飲んだよ。これで満足?」
「んー……」
私は曖昧に頷いて返事をした。ウラタロスに変化は……無さそう。顔や体はいつも通り青いし、目がマンゴーみたいなのも変わらない。飄々とした雰囲気も、優しげな表情も。
「……なーんだ。ウラタロスはワサビ入りコーヒーを飲んでも変わんないんだ」
つまんないの。いつもと違うウラタロスが見れると思ったのに。
溜め息をついた私に、ウラタロスもまた溜め息をついた。まるで呆れたみたいに。
「そのために僕にコーヒーを飲ませたの?」
「そうだよ。だって気になったんだもん」
「お生憎様だったね。僕は先輩やキンちゃんみたいにはいかないよ」
ふっと口角を上げるウラタロス。私はそれに頷いた。
辛いもので様子がおかしくなるのは二人だけってことね。
確かに、イマジンだって元は人間だもの。唐辛子やらワサビやらで性格が変わるなんて、私達みたいな普通の人間に置き換えたら有り得ない話。モモタロスとキンタロスが不思議な体質をしてるだけなんだ。
……カレーライスは食べても平気なのかな? あとブラックペッパーとか。唐辛子は唐辛子でも、麻婆豆腐とか。
「じゃ、僕はお風呂に入ろうかな。ゆっくりしたいから先輩達は後にしてよね」
ウラタロスは手をひらひら振りながら去っていった。モモタロスは「てめーだけの風呂じゃねーぞ!」と怒っていたけど、どっちにしろお風呂の気分ではないのか知恵の輪に向き合った。
リュウタロスはお絵かきの続きを始めたし、キンタロスはずーっと寝てるし。私も小説を読もうとして……やっぱり立ち上がった。
「ウラタロス!」
食堂車を出てすぐの場所にウラタロスは居た。壁に腕をついて、何だか気怠そう。
「……どうしたの、咲涼」
「いや、あの、なんかごめんね、無理に飲ませちゃって。お風呂入るなら水もちゃんと飲んでね」
コーヒーは水分補給にならないから。うわ、ペットボトルくらい持ってくれば良かった。気が利かないな私。
「……あの、それで、大丈夫? 具合悪い……?」
そんな風に壁にもたれかかっているのは珍しい。食堂車ではいつも姿勢よく座っていて、それは立っているときだってあまり変わらなかったから。
ウラタロスは「あー……」と微妙な返事をした。その顔はいつも以上に表情が読み取れない。やっぱりワサビ入りコーヒーがダメだった……?
「ウラタロス……?」
肩に触れようとすると彼はその手を掴んだ。決して痛くはないけれど、とても強い力で。
驚いて彼の顔を見たらバチッと視線が絡んだ。いつもなら柔らかいはずの目は、今は睨みつけるように細められている。紅く綺麗な瞳がじっと私を見つめた。
「こっちは精一杯我慢してるっていうのに、呑気なもんだな」
「え──うわっ!?」
腕を引かれ体が勝手に動く。背中に衝撃を感じたと思えば目の前にはウラタロスの整った顔。逃げ道を塞ぐように、私の顔や体の横には手が添えられた。
これ、あの、壁ドンってやつ……?
「う、うら、」
「咲涼」
優しい声色はどこへやら、這うような低い声が鼓膜を震わせる。名前を呼ばれると何も言えなくなって、お互いの吐息がかかるほどの距離で彼を見つめた。
「僕はかなり耐えたぜ。理性を総動員したんだからな。それでも釣られに来たのはお前の方だ」
「あの、ご、ごめ……」
「謝っても遅ぇって」
まるでモモタロスみたいな乱暴な口調。それでもいくらか冷静さは感じられる。だからこそ、少し怖い。
「手ぇ出したって文句は言わねぇよなぁ?」
彼の手が頬を撫でる。綺麗な手だけど大きくて、ウラタロスもやっぱり男の人なんだと実感した。
動けずに居ると、彼の指が私の唇に触れた。心臓が激しく脈打つ。頭が真っ白になって、視界は揺らいで、鼓動の音しか聞こえない。
「ずっとこうしたかった」
ウラタロスが何か言っているのは分かる。でも何も聞き取れない。心臓がうるさくて。脳が考えることを放棄しちゃって。
「咲涼……」
近付いてくるウラタロスの顔。どうしてかそれはスローモーションみたいにハッキリ見えて、息を止めてぎゅっと目を瞑った。
「──何してんのよッッ!!」
突然ウラタロスの顔が消えた。デンライナーの白い壁が視界に広がり、私は少しずつ落ち着きを取り戻していく。
横を見るとハナちゃんが顔を赤くして立っていた。下を見るとウラタロスがうずくまっていた。
……いつの間にかデンライナーは止まっていたみたい。それで、ハナちゃんがちょうど乗ってきたんだ。そうしたら私達が、こんな状況で……びっくりしただろうな。
「咲涼、大丈夫!?」
「あ、ありがとう、ハナちゃん……!」
ハナちゃんが来なければ今頃……。
「何があったの?」
ハナちゃんに事の次第を説明した。たぶん、ワサビ入りコーヒーのせいだってことも。
「イマジン共ってみんなそうなのね……」
ワサビは禁止ね、と呟いたハナちゃんに何度か頷いた。この様子じゃリュウタロスだってどうなるか分からない。
「う〜ん……」
ウラタロスが呻きながら起き上がった。私は慌ててハナちゃんの背中に隠れ、そのハナちゃんは握り拳を作った。
殴られた頭を押さえながらこちらを見るウラタロス。鋭い視線は健在。
「ちっ……いいとこだったのに」
彼は不満そうに舌打ちしてハナちゃんに抗議する。こんなウラタロス、本当に見たことがない。
ハナちゃんは拳を突き出した。
「ふざけんじゃないわよ! アンタ、咲涼に嫌われても知らないからねッ!」
ウラタロスはその言葉で私へ視線を移した。そして、壁になっているハナちゃんをやや強引に横へずらし、気遣いもなく私を見下ろす。
「バカ亀ッ! 離れなさいッ!」
体を殴るハナちゃんのことなんて気にした様子もない。彼女は力が強い方だから結構痛いんじゃないかと思うんだけど……。
「……嫌いになんかならねぇよな?」
「え?」
「咲涼は、僕のこと……」
ウラタロスは私から目を逸らした。彼の視線は車内の壁を走り、間を繋ぐように「あー……」なんて言葉にならない声をあげる。
ハナちゃんも私も、そんなウラタロスを不思議に思って顔を見合わせた。
「……嫌いになんかならないよ」
「……」
「っていうか……ううん、何でもな〜い」
「え!?」
ウラタロスの横を通り抜けて食堂車への扉に手をかけた。彼は「ちょっと待ってよ、咲涼っ!」と慌てている。あ、戻ったね。
「“っていうか”、何!?」
続きを促すウラタロス。私は「うーん……」と少し悩んで、それから返した。
「ないしょ!」
──少しは釣られる気分を味わいやがれ!
(言えない。いつも優しいウラタロスの、あのギャップに釣られたなんて。……こうなったらウラタロスのことも振り回してやる。釣られっぱなしじゃいられないでしょ!)
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