デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
僕のヒーローアカデミア
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諦めは早い方なんですよ。
「水無月」
「ご、ごめん、また今度っ」
私は話しかけてきた障子くんから逃げるようにその場を去った。
「……」
誰もいない女子トイレ。個室に入り、フタの閉じた便器に座り込む。バクバクと心臓がうるさい。どっと息をつく。
「あぁ~~~~っ! もぉ~~~~~っ!!」
なんで避けちゃったんだろう! 話しかけてくれたのに! 障子くんから! あの無口な障子くんから!
「さいあくだぁ……」
こんなことになったのも全て自分のせい。
さかのぼること一週間。私は障子くんに告白をした。もちろん、恋をしているという旨の告白だ。
元々障子くんのことはカッコイイと思っていて、好きか嫌いかハッキリさせるなら好きな方だった。決定打となったのは林間合宿。
ヴィランに襲われ至るところで大混乱が起きたあの日、常闇くんの暴走によって障子くんは髪が乱れていて、自分も傷付いていながら常闇くんを助けようとする姿勢が、とても惹かれた。
私だって死んでしまうかもしれない状況でそんなことを考えるのだから、とても余裕だったのか、それとも障子くんが魅力的だったのか。
告白の返事はまぁ、予想していたと言えばしていたが、「NO」だった。
私は『今まで通り接してくれると嬉しいな』とだけ言ってその件は流した。しかしそんなこと流せるわけがない。私が言ったことだけど。
彼は本当に今まで通り、むしろ優しすぎるくらいには接してくれている。対して私はどうだ、あのあからさまな態度! 失礼にもほどがある!
「帰ろう」
トイレを出て教室に荷物を取りに行く。さすがに誰も居なかった。
耳郎ちゃんでも誘ってアイスか何か食べて帰ろうと思っていたけど……残念、トイレで絶叫している間に帰ったようだ。
「仕方ないなぁ」
とぼとぼ歩いて玄関へ向かう。途中、廊下ですれ違ったプレゼント・マイク先生に絡まれ三十分を無駄にした。早く帰りたいのに、と言い出すこともできず困っていた所をセメントス先生に助けてもらって、やっと解放された。
「話長いよなぁ、あの先生」
声がでかいし。
「……あれ」
玄関には障子くんがいた。後ろ姿だが、体が大きいし腕もたくさんあるから彼に間違いない。
「困った……」
以前なら何でもないような顔をして「あれ? 障子くんまだ居たの? 用事とかあるの? そっか、じゃあね」くらい言えただろうに、盛大に逃亡したせいでとにかく気まずい。「じゃあね」すら気軽に言えない。
「水無月」
「ひっ!?」
突然聞こえてきた声に、びくっと肩を震わせる。私の隣に彼は立っていて、隠れていたのに存在がバレていたことに驚く。
彼の複製腕なら簡単なこと、だろうか。
「待っていた、遅かったな」
「待ってた? わ、私を? どうして?」
「一緒に帰るんだ」
ぐっと手を引かれて戸惑った。一緒に帰るって恋人か何かなの? 待って待って、おかしいでしょ。
「障子くんちょっと待ってよ、私たち、そんな……」
「水無月は、まだ俺のことを、好いてくれている、だろうか」
「えっ」
障子くんは振り返って私と視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「……そんなはずはないな。態度を見れば明らかだ」
「ご、ごめんなさい! そんな、つもりなかった、んだけど、あの、えっと」
どういうことだろう、これは脈ありと思っていいのだろうか。一週間経った今になって? 意味がわからない。
「だって私、ふ、フラれたわけだし、話しかけられたら嬉しいけど、気まずいし、だから」
「もういい」
障子くんはため息をついて靴をはいた。私も靴をはくよう仕草をしてきて、さっさと行ってしまう。急いで追いかけるが歩幅の差は大きかった。
「障子くん、しょうじ、くんってば、待って、ねぇ!」
「好きだ」
「待ってってば! ……えっ?」
「好きだ!」
珍しく声を張り上げて、辺りに聞こえてしまいそうな声量で彼は言うのだ。
「本当は前からずっと好きだった。だがお前を、不覚にも可愛いと思ってしまった。……ほんの冗談のつもりだった」
「え……」
夕焼けが濃くなり始めた。寒さが目立ってきて鳥肌が立つ。偶然か、障子くんはそんな私を抱きしめてくれて、混乱する頭が少し落ち着いた気がする。
「……悪いと思っている。だが、俺と……付き合ってはくれないだろうか」
「も、もちろんですっ……!」
よかった、と笑う彼もカッコ良かった。
──諦めは早い方なんですよ。
(だから冗談でもあんなこと言わないでよ。)
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