デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
僕のヒーローアカデミア
What's your name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
寡黙さ故の遠回り。
ヒーロー科の毎日は過酷だ。そんなもの当然と言えば当然だし、それを覚悟で身を投じたのだから文句はない。甘っちょろい訓練でヒーローになったとしても、同じように敵が甘いわけもないのだし。
だけど、実技があった日なんかは疲れて勉強も出来ない。
私は馬鹿だから試験はすっごく大変。だからこそテスト前に慌てて勉強するよりも、普段から予習・復習をしっかりやっていれば苦労することも少ないだろうと思うんだけど……家に帰ると寝ちゃうんだよね、これが。
で、結局テスト前に泣きを見る羽目になるわけ。
そんな日々を過ごす私だが、最近なんとなく気になることがある。それは……。
「……障子くん?私の顔、なにかついてる、かな」
「…………いや」
「そっか、ならいいんだけど……」
隣の席の、障子目蔵くん。大きな体で、複数の腕や口、顔の半分以上を覆うマスクが特徴的。
その障子くんがこの頃、ものすごくこちらを見ている……ような気がするのだ。
彼はとってもカッコイイ。体育祭では梅雨ちゃんと峰田くんをおぶさって奮闘していた。こんなことを言うのもおかしいけれど、私も彼におんぶしてもらいたい。
いや……別に彼のことが好きなわけではないと思う。そんなに話したことがないから、彼のことはあまり知らないし。クラスメイト以上の関係……友達ですらないだろう。
これはたぶん、彼の性格もあるんだと思う。物静かな彼は喋ることがとっても少ないから。
上鳴くんや爆豪くんなんかはよく目立つ方だ。良くも悪くも。だから知ろうと思わなくても勝手に情報が入ってくる。
特に爆豪くんは本当にそう。声が大きくて個性も派手。目立ちたがり屋ではない、ただ負けず嫌い……なんだろう。だから自然と前に出ることが多くなって、結果的に目立っている。
対照的に、さきほど述べた通り、障子くんはそもそも喋らない。大きすぎる体とは裏腹に個性はかなり諜報向き。もちろん体育祭のときのように、その体格を活かした戦い方もできるみたいなんだけど……基本的に前衛じゃない。
だからなのかな。普段から一歩引いたところに居るような、達観しているような様子がある。……これは、最近観察してみて分かったことだ。
プレゼント・マイク先生の授業を聞きながら溜め息をつく。
ちらりと横を見ると、もう彼は私の方を見てはいなかった。
彼にも可愛いところもあったりする。障子くんは体が大きいから椅子や机が小さくて……似つかわしくないというか、ちまっとした感じがとても微笑ましい。
チャイムが鳴って授業が終わった。お昼ご飯だ!
「咲涼ちゃん、ご飯食べに行こ~」
「ちょっと待ってー!」
お腹すいたぁ、と言うお茶子ちゃん。空腹の彼女をあんまり待たせるわけにもいかない。急いで行こうとしたら椅子に突っかかって転びそうになった。
「っわ!」
姿勢を立て直す暇もなくぎゅっと目をつぶる。しかし痛みはなくて、代わりに温かみがあった。恐る恐る目を開けると床は遠く、えっ? と声を上げた。
「大丈夫か」
声の主は障子くん。私は慌てて離れ、混乱する頭を落ち着かせようとした。
「あっ、ありがとう!」
「いや、怪我がなくて良かった」
「本当に、ありがと、もう、慌てちゃってやだよね。わ、私いくね!」
逃げるようにその場を去る。
……つもりだった。
「待て」
ぱしっと掴まれた手。力はあまり入れられていなかったけど、振りほどくには強すぎた。そもそも私に力がない、っていうのもあるかもしれない。
不思議に思って彼を見ると、障子くんの目は真っ直ぐこちらを見ていて、心臓がぐんっと大きく動いた。
「どうしたの……?」
「……後で、話したいことがある」
それだけ告げてどこかへ行った障子くん。私はと言うと呆けてしまってしばらく動けなかった。しかし再度私を呼ぶ声が聞こえて空腹を思い出す。
今度は椅子や机に気をつけながらお茶子ちゃんの元へ駆けつけ、一緒に食堂へ向かった。食堂のご飯はいつも美味しいから、この時間が楽しみなんだよね。
……だけど、今日はなんだか味気ない気がしてしまった。
「水無月」
障子くんが話しかけてきたのは放課後、教室に人が居なくなったとき。普段は私もさっさと帰るのだけれど、彼の話があるかもしれないから、何かをするふりをしてやり過ごした。
彼はいまだ何を考えているのか分からず、ただぼーっとしていたようにも見えた。
「話、だよね」
「そうだ。……大した話じゃないが」
カバンをゴソゴソと漁り始めた障子くん。ぱっと差し出されたのは、彼の手には小さすぎるもの。
「これを、やろうと思ってな」
「……飴?」
まんまるの球形になったスティックキャンディ。子供の頃はよく食べていたけど、最近は食べることも減ったなぁ。
「なんで飴?」
「以前好きだと言っていたのを聞いてな」
確かにこういう飴は好き。童心に帰れる気がして。食べやすさで言うと棒のついていない飴の方が断然食べやすいけれど、そういうことじゃないんだよね。
しかし、わざわざ話がある、なんて言うほどのことではない。例え周りに誰かが居たって、飴くらいならさっと渡してくれればそれで済む。隣の席だからなおのこと。
恥ずかしかったんだろうか。ただの飴と言えど異性にプレゼントになるわけだし。……そう言えば、どうして私の好きなものをわざわざ用意してくれたんだろう。
飴を見つめて首を傾げる私に、障子くんは話を続けた。
「それと……意味を、調べてみてほしい。本来は例のイベントでないと通用しないようだが……」
この際だから関係ない、と呟いた彼は私から視線を逸らす。意味? 例のイベント? 何のことだかさっぱり分からない。とにかく調べるしかないらしい。
その場で『飴 プレゼント 意味』で調べてみる。いっちばん上に出てきた検索結果は、あまりに衝撃的で信じ難いものだった。
「……これ、って」
──寡黙さ故の遠回り。
(信じ難い……けど、赤くした彼の顔こそが、真実を物語っている。)
ホワイトデーにおいて、チョコをくれた相手にキャンディをプレゼントすることは、「貴方が好きです」という意味になるそうで。
3/6ページ