デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
僕のヒーローアカデミア
What's your name?
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彼との距離を縮めよう作戦。
「リピートアフターミー! “咲涼”!」
「……」
「無視は酷い……」
常闇くんと結ばれて早一ヶ月。特にこれといって恋人らしいこともしていない。デートとか、き、キス、とか……。しかも恋人だというのにお互い名字で呼び合っている! そんなに他人行儀なことある?
普段もあまり話さないし、クラスメイトの誰にも恐らく知られていないだろう。これって良いのか悪いのか……。
彼と過ごす時間帯と言えば、誰も居なくなった放課後の教室くらいだ。家の方向もちょっと違うから、手を繋いで帰るなんていう少女漫画っぽいこともできない。だから私は放課後だけが楽しみで、毎日の苦行を頑張れる。
大体は私があれこれ話すだけだが、常闇くんは優しく微笑みながら話を聞いてくれるし、時々常闇くんからも面白い話を聞かせてくれることがあるから、毎日のように話していても飽きない。
最近はと言うと、ご覧の通り下の名前で呼んでもらえるように頑張っている。どれだけ言っても絶対に呼んではくれないのが悲しいところ。
「もう私達、一ヶ月経ったんだよ! 名前で呼ぶくらいしてくれてもいいと思います!」
「それは俺だけじゃない、水無月もだろう」
「私はいいんです、まずは常闇くんから!」
理不尽? 知ったことか、相澤先生も言っていたじゃないか、世の中は理不尽なことだらけだ、って!
私の言葉に、常闇くんは椅子から立ち上がって目の前に立つ。彼の方が少し高いから、その分見上げる形にはなるんだけど、……それだけじゃなく、なんとなく威圧が強い気がする。
ちょっと逆鱗に触れたっぽい?
「俺が駄目で水無月は良い、なんておかしいだろう。恋仲であるなら、運命共同体……可能な限り平等に課題は与えられて当然のはずだが?」
「えっと、……と、常闇くん……」
ゆっくりゆっくり、椅子ごと後ろに下がって距離をとる。けれど彼が私との距離を縮めていくから、あまり意味はなかった。
「怒ってます?」
「怒りなどない。ただ……」
言葉を切り、誰も居ないのをいいことにダークシャドウを発現させて私を捕らえる。ダークシャドウは「咲涼!」と嬉しそうに名前を呼びながら、痛くない程度に身動きを封じた。
卑怯だ! フェアじゃない! 暴力反対!
というか、ダークシャドウの方が先に名前呼んじゃってますけど!?
無言で抗議すると、離れていた距離がぐっと近付いた。目と鼻の先には常闇くんの顔。というかくちばし。ち、近すぎる!
かあっと顔が赤くなるのを感じた。いやいや、好きな人が近くに居たら誰だって照れるでしょ?
「“手本”を見せてもらおうと思ってな」
「て、手本?」
「水無月が俺の名前を呼べば、俺も呼応しよう。あんなにも強いて来たからには自分は出来るんだろう?」
あの紳士的な常闇くんはどこに行ったんだ、と思わずには居られない悪い顔をしていた。ほんと、別人みたい。私だって恥ずかしいってことを分かって意地悪してる。
無駄と分かっていながらも、私は慌てて首を振った。
「ま、また今度にしようか! ね! 常闇くん、落ち着こう!」
「俺はいたって冷静だ」
困った。これは言うまで逃げられない。むしろ言っても逃がしてもらえれば上等、といったところか。
耳元で「さぁ、早く」なんて掠れた声を出されて、思わず力が抜けた。
すると、ダークシャドウの拘束が解けたかと思えば、私の体を支えるように常闇くん本人にぎゅっと抱きしめられ、ドキドキが止まらない。
「あ……ぅ……」
……ずるい。今まで手だって繋いだ事ないのに、急にゼロ距離って、耐えられるわけない。
「は、はなして……」
「水無月が名前を呼んだらな」
「ぅ……ふ、ふみかげ……くん……」
ね、呼んだでしょう、離して、と彼を見上げる。しかし一向に離れる気配はなく、むしろガッチリ固められてるような気がした。
「よんだら離してくれるって……!」
「……無理だ。扇情的過ぎる」
「えっ」
「困った……」
“困った”はこっちの台詞だよ、と言いそうになったのを堪え、もうこんだけ恥ずかしいなら何してもいいや、と少しヤケになる。
抵抗するふりをしながら、すぐ横にある彼の顔にの方を向いた。
「ん……」
「っ……!」
そして、頬……ふわふわした羽毛、に軽くキスをした。彼とはキスが難しいから、頬が精一杯だ。そもそもくちばしにキスをするのは恥ずかしすぎる。それができるなら名前で呼ぶことなんて簡単だ。
常闇くんは目を見開いて固まった。こんな顔、普段は見ないからとても面白い。
けれど私が優位に居られるのは本当にわずかな時間で、次の瞬間には壁に押し付けられていた。
「煽ったのは、咲涼だからな……」
「え、な、な、名前っ……、えっ……あおって……?」
名前で呼んでくれた! という嬉しい気持ちと、煽ったなどと因縁をつけられ戸惑う気持ちが入り交じり、頭の中は大混乱。
その間、彼は耐えるように目を閉じて、しばらくすると私から離れた。
「……忘れてくれ、帰ろう」
「わ、私! 常闇くんなら、そういうことされてもいい、よ……!」
鞄を持って教室を出ようとしていた常闇くんに、思わず叫ぶように言った。思ったよりも声を張り上げてしまって彼も少し驚いた様子だったけど、すぐに軽く笑って私の鞄も持ち上げる。
「行こう。置いていくぞ」
「えっ! 待ってよ!」
自分のものは自分で持つよ、と言ったのだが、彼は首を振ってそのまま持ち続けてくれた。たったそれだけのことなのに、心臓を掴まれたような衝撃が走る。常闇くんって、こういうところあるよね……!
そんな優しさが紳士的でカッコイイ、そういうところも好き! と感情の溢れるまま伝えたら不敵に笑って、
「だが、さっきので分かっただろう? どんな紳士だろうといつまでも紳士の皮を被っては居られない。男は獣だ」
なんて。……ちょっと、笑えないかも。
──彼との距離を縮めよう作戦。
(縮めるどころか貞操の危機みたい。え、自業自得だって? ……ぐうの音も出ないくらい的を射てる。)
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