デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
僕のヒーローアカデミア
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愛に容姿は関係ない。でしょ?
「ねぇ、常闇くん」
「残念だが俺は好きじゃないな」
「……まだ何も言ってないですけど」
突然だが、私は常闇くんが好きだ。もちろんLOVEの方で。しかし彼は今のように全く取り合ってはくれない。この厳しい学校生活ではそんなもの必要ないのか、それとも。
「どうせまた好きだ、とでも言うんだろう」
「そうだけど……」
一目惚れに近かった。漆黒の羽、鋭い目。きれいなくちばしが開けばうっとりしちゃうような低い声。どれをとっても素敵な人。好きにならないわけがない。
とはいえ、最初は『カッコイイな』という憧れに似た感情だった。同じクラスになってときどき接するようになって、それで段々と……。
ありきたりかもしれないけどそれが過程だ。そして結果は出ていない。彼は本当にガードが堅い。
「他に好きな子が居るとか? だから私は迷惑?」
「……どうだかな」
肯定はしないが否定もしない。それは好きな子が居る、と受け取っていいの? 毎日のように付きまとっていればやっぱり迷惑……だよね。
「そっか……じゃあね! 私、帰るよ」
私は常闇くんに手を振って教室を出た。前方にはお茶子ちゃん、デクくん、飯田くんが居て、途中まで一緒に帰ろう、あわよくばお茶子ちゃんに話を聞いてもらおう、と廊下を走った。
「お茶子ちゃん!」
「っわ! びっくりしたぁ~!」
「水無月くん!廊下を走るんじゃない!」
大きく肩を震わせて驚くお茶子ちゃん、同様に汗を垂らしているデクくん、委員長らしくキビキビ叱ってくる飯田くん。
彼らは本当に仲良しで、羨ましい。
「ごめん二人とも。私は咲涼ちゃんとお話してから帰るね! 先行ってて!」
お茶子ちゃんの言葉に、男子二人は早々と去っていった。二人の背中が遠くなったところで、彼女は大きなくりくりお目目をこちらに向ける。
「咲涼ちゃん……常闇くんは?」
「なんと! 見事!」
おっ? という風に目をキラキラさせてくる彼女。そして私は期待を裏切るのだ。
「玉砕しました……」
分かっていたことではある。そもそも彼に私は釣り合わない。だって私、成績も見た目も全然良くないから……。
それに、常闇くんに好かれていると思える節は一つもない。
「咲涼ちゃんはそれでいいの? 諦めちゃうの?」
「だって、わたし、どれだけフラれ続けてると思う?」
数え切れないくらいだ。一度だって前向きな返事を貰ったことはない。嘘でもいいから好きって言ってほしかった。ううん、嘘はいや。虚しいだけだもんね。
「しつこくしすぎて嫌われちゃったら元も子もないよ。諦めてクラスメイトとして話してる方が、きっといいんじゃないかな」
振り向いてほしい、だけど好きな人に迷惑はかけたくない。これは好きだからこそ、とも言える。
私達は恋愛ごっこをするために雄英に来たわけじゃない。ヒーローになるためにここに来た。彼はその目標に向かって真っ直ぐに努力しているのに、私がその邪魔をしてしまっているんじゃないか。……そう思うと、救いようのない馬鹿みたいに思えてきた。ほんと、笑っちゃう。
「だけど……、だけど、ね、お茶子ちゃん」
「うん」
「やっぱり、すごく……すき、なんだっ……」
目の前が潤む。この気持ちを止めることはできない。どうしようもなく好きで、好きで、仕方ない。
お茶子ちゃんはそんな私を抱きしめてくれた。
「誰かを好きになるのは、悪いことじゃないんよ。……でも、咲涼ちゃんの決めたことを私は尊重する」
誰も通らない廊下で我慢を知らない子供のように泣きじゃくる私を、お茶子ちゃんは優しく撫でてくれた。小さい頃、母親に抱きしめもらったみたいな暖かさだった。
次の日。寝坊して家を出るのがいつもより遅くなってしまった。
お腹は空いていたけれど朝食なんて食べる暇もなかった。ぐうぐううるさいお腹をそのままに、今までにないくらいの全力疾走を披露する。
校門をくぐる頃には汗だく。でも、なんとか時間には間に合いそう。校舎が広いおかげで教室まで遠いのがネック。
ふと下駄箱を見ると手紙が入っていて、まさかラブレター? なんて。
走りながらそれを開く。そのとき、聞きなれたチャイムが無慈悲に響いた。
「嘘でしょ!?」
バタバタと音を立てて走り、教室に駆け込んだ。このときほど重い鞄を恨んだことはない。
「おはようございます! セーフですか!?」
「アウトに決まってるだろ、アホか。罰として放課後は課題な」
「えっ! せめて明日までとかにしてもらえませんか!? 先生だって私が馬鹿なの分かってるでしょ!?」
「罰の意味、分かってるか?」
そんな会話を乗り越え放課後。ちなみに課題は倍にされた。
「きっついなぁ!」
今日は皆とカラオケ行く予定だったのに! 私だけ行けないなんて! みーんな私を置いて行っちゃうんだもんなぁ!
誰か一人くらい手伝ってくれてもいいのに……全然終わんないよ……。
「そういえば、手紙……」
鞄にしまった手紙を取り出す。少しくしゃくしゃになってしまっているそれを開いて綺麗にして、読んでいく。
きれいな字で書かれたそれは、ラブレターというには難しい言葉がたくさん使われていた。課題そっちのけで読み込んでみるに、放課後、体育館裏で待っている……という内容のようだった。
果たし状っぽい。
まぁいい。物凄く大切な用事ならきっと相手から来てくれる。
突然扉の開く音がして、ずっと一人だった教室に誰かが増えた。
「と、常闇くん?」
「……水無月」
彼は私の隣に立って見下ろしてくる。あまりにもじっと見つめてくるので、小柄とはいえ少し怖い。
「なに、かな」
「手紙を出して待ってみたものの、課題を課されていたのを忘れていてな。俺から来た」
手紙ってまさか、今読んでいた呼び出しのこと? なんでわざわざ常闇くんが? どうして体育館裏に?
私の考えていたことが分かったみたいに、常闇くんは話を続けた。
「……直接約束を取り付けるのは、勇気が出なかったんだ。呼び出すなら手紙を下駄箱に入れ、場所は体育館裏に……と、相場は決まっているだろう」
「そう、かな。……そうかもしれない」
あんまりにも真面目な顔で言うから、思わず頷いてしまった。
「ごめんね、教室まで来てもらっちゃって。何の用事だったの?」
常闇くんは私の問いかけに「あぁ……」と曖昧な返事をして、隣の席に腰を下ろした。何か言いたいことがあるんだろうけど、言いにくそう。
「この頭部は、人の形とは掛け離れている。恥に思ったことなど微塵もないが、気後れしないわけじゃない」
常闇くんは自分の顔や頭を触っていた。鳥のようなふわふわとした見た目の、気持ちよさそうな頭。確かに普遍的とは言えない形だけど、かと言って珍しいわけでもない。それこそ個性というやつだ。
それがどうしたんだろう?
「……正直、こんな俺で良いのかと悩んでいた。男として足りないものばかりなのではないかと。水無月の言うほど、俺は大層な男では……」
常闇くんはそこまで言ってぐっと目を閉じた。奥歯を噛み締めて何か堪えているような表情。悲しみ……いや、怒り……?
大丈夫? と声をかけようと口を開いた。しかし私が言葉を発するよりも先に常闇くんが目を開き、こちらを真っ直ぐに射抜く。輝くその目には覚悟が込められているように見えた。
「言い訳はやめだ。──単刀直入に言う。水無月が、好きだ」
「……え、……」
時が止まった気がした。だって、信じられない。あんなに告白して、あんなに拒まれて……それなのに、好き?
「……待って、それなら何で……」
何でずっと私の気持ちに応えてくれなかったの? という疑問は、浮かんですぐにすっと溶けた。……分かった。言い訳って、そういうことね。
「見た目を気にしてたってこと?」
「……」
無言の肯定。気まずそうに顔を背ける常闇くんに、思わず笑ってしまった。
「やだなぁ。そんなことでフラれてたの? 私」
「そんなことで済むことでは……!」
「常闇くんにとっては、そうかもしれないね。でも私にとっては“そんなこと”なの」
あーあ、とても傷つきました。私だってこれでも乙女なので、告白を断られるのは心に来るものがあります。何より、両想いなのに無意味にフラれ続けていた事実がショックです。一体いつから両想いだったの? もっと早く言ってくれたら良かったのに。
「あのね、常闇くん」
──愛に容姿は関係ない。でしょ?
(私はね、常闇くんの性格も声もすっごく好きだけど、その顔だって大っ好きなんだから。ぜんぶ、ぜーんぶ、ね!)
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