デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
真の恋の道は、茨の道である。
What's your name?
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5.実は優しいモモタロス。
「ねぇ、今の良太郎くんのことはモモタロスって呼んだ方がいい?」
良太郎くんの体に五人分の……魂? 人格? があるとしたら、今私と話している良太郎くんは良太郎くんでないことになる。実際、性格は全然違うし。
それなら、表に出ている人に合わせてそれぞれの名前を呼んだ方がいいんじゃないだろうか。見た目はあんまり変わらないから見極めるのが難しそうだけど。
「あ? あー……まぁ、そうだな。俺は良太郎じゃねぇからな」
「分かった。私は水無月咲涼です。よろしくね、モモタロス」
「おう」
手の平を差し出すと、モモタロスは一瞬悩んだように見えたけどすぐにその手を握った。握手の文化はちゃんと知ってるんだね。
「モモタロスは……本当に悪霊?」
「悪霊じゃねぇ!」
私の質問にモモタロスは声を荒らげたけれど、ハナさんはそれを一蹴するかのようにピシャリと言い放った。
「似たようなもんでしょ。アンタ、見た目は怪人なんだから」
「か、怪人」
怪人って……それこそニュースでよく見るあれ? まさか、そんなのが良太郎くんに憑いてるの? でもモモタロスは人を襲っていないし、街を壊したりもしていない。荒々しい人には見えるけど……どちらかと言えば良い人のように思える。
あくまでも、この浅い関係のイメージではあるけれど。
「……怪人ってどんな感じ? モモタロスってほんとはどんな顔してるの?」
「お前さっきから質問ばっかりだな! ガキかよ!」
鬱陶しそうな顔で、呆れたように溜め息をつくモモタロス。私はハッとして、残っているサンドイッチを頬張った。
「……ごめん……」
モモタロス達のことを信じると言ったものの、やっぱりあまりにも不思議な存在だから嘘みたいに思えた。おとぎ話みたいで面白くて、すごく興味があるからあれこれ聞いてしまったけど……うるさかったよね。
「もう聞かない。ごめん、迷惑かけて」
根掘り葉掘り聞いたりはしないから、せめてたまに雑談くらいはしてくれると嬉しいな。それくらいならいいでしょ?
「め、迷惑……とかじゃ、ねぇけどよ……」
モモタロスは困惑したように言った。というより、私がしおらしくしているからそう言わざるを得ないって感じ。……本当にごめんね、そんなつもりは無いんだけど。
「いいの、無理しないで。モモタロスは優しいんだね」
「なっ……」
モモタロスは口をもごもごさせて黙りこくった。
それを見ていたハナさんがモモタロス(厳密には良太郎くん)の腕を掴み、眉をひそめた。
「だから余計なこと言うなっていつも言ってんでしょ!? アンタが出てくるとロクなことにならないんだから!」
「う、うるせぇな!」
「うるさいのはアンタでしょ!」
ライブラリの中だから二人とも小声。だけどどちらも語気は強くて、それがちぐはぐで面白い。
口論は収まりそうにないけど、見るからにモモタロスはたじたじ。ハナさんが優勢に見える。
この前の様子も含めると、この二人はいっつもこうなんだろうな。
「仲良しだね、二人とも」
「「誰が!!」」
「ほら仲良し。ふふ」
喧嘩するほど……って言うことわざは案外間違ってない。
思わず笑いを漏らすと二人は口論をやめた。そういうところもそっくり。
「……あー、何だ。そのー……」
モモタロスが目をきょろきょろさせながら、言いにくそうに口を開いた。何でもかんでもハッキリズバズバ言いそうな人だと思ったのに、意外とそうでもないのかな。
「質問ばっかだって言ったのは、そう思っただけだ。誰も迷惑とは言ってねぇ! だから……聞きてぇことがあるなら好きにしろ!」
腕を組んでふんと口を閉じたモモタロス。機嫌が悪いようには見えない。
「ありがとう、モモタロス」
「うっせ」
「ねぇ、ハナさん。モモタロスって本当は優しいでしょ」
「……こう見えてもね」
呆れたように笑うハナさん。やっぱり、と笑い返すとモモタロスは「ちっ」なんて大きな舌打ちをした。
「調子狂うぜ」
頭をがしがし掻いたあと、目元がふっと柔らかくなった。怖い顔は鳴りを潜めている。
「良太郎くん?」
「……はい、そうです」
今は、この体の持ち主である良太郎くんが居るらしい。モモタロスは居なくなっちゃったみたい。
モモタロスが居る間、良太郎くんは私達の会話を聞いているのかな?
不思議に思って聞こうとしたけれど、その前に良太郎くんが口を開いた。
「……えーと、咲涼さん」
「なぁに?」
「モモタロスと仲良くしてあげてください。良ければ、他のみんなとも」
あぁ、聞こえてたんだ。なんて下らない感想が浮かんではすぐに消えた。
良太郎くんはとても真剣な顔でこちらを見つめていた。穴が空きそうなほど強い瞳は初めて見る。
「……もちろん! むしろ、私の方こそ仲良くしてほしいな。友達少ないからさ。……って、伝えておいてくれる?」
「はい、分かりました」
安心したような笑みを零して、良太郎くんはカウンター奥へ戻っていった。
……怪人が憑いてるなんて、と思ったけれど……良太郎くんにとってモモタロスがどんな存在か、なんとなく分かる。
モモタロスはあんなんでも良い人そうだし、相性が悪いらしいハナさんもなんだかんだで褒めていたし、意外と大丈夫なのかも。
「……あれっ? モモタロスのこと、愛理さんは知ってるの……?」
「多分……知らないと思います。今のところ指摘されたことは無くて……」
うそ。ほんとに? いくら大らかでふわふわした人だとしても、あの良太郎くんがあれだけ変わった様子を見せていたら気付きそうなものだけど……みんなで必死に隠してるのかな。
うん、そうだよね。だって愛理さんは良太郎くんのお姉さんなんだから、私よりもよほど彼のことを分かってる。その人が気付かないってことは相当頑張って隠してるんだ。それも、みんな揃って。
確かにあまりバレていいことではない。そもそも怪人が憑いてるとか、あんまり信じてもらえるようなことじゃない。……愛理さんは深く考えず鵜呑みにしそうだけど。“大変なのね〜”とか言って。
「あの……咲涼さん。連絡先とか教えてもらってもいいですか……?」
ケータイを取り出しながら尋ねてくるハナさん。私は上がる口角を押さえきれず、何度も頷いて応えた。
「私もハナさんの連絡先、知っておきたい!」
ほら、良太郎くん達……特にモモタロスに何かあったとき、ハナさんしか頼れる人が居ないじゃない? 愛理さんはモモタロスのことを知らないわけだし。だったら電話番号くらいは教え合って居た方が都合が良い。
……っていうのはもっともらしい言い訳で、単純にハナさんの連絡先を知りたいだけなんだけどね!
