デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
真の恋の道は、茨の道である。
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2.ワイルド、そして大胆。
「……大丈夫? 頭とか打った?」
「う、ううん! 大丈夫! 擦りむいただけ……はは……」
「そう?」
なんか怪しいけど、良太郎くんの言葉を信じるしかない。彼のスペースに土足で踏み入れるほど親しくもないんだから。
私は所詮ミルクディッパーの客で、彼は店主の弟でありバイト。適度な距離感を保たないと。
「私で良かったら話くらいは聞くからね」
「うん。ありがとうございます、咲涼さん」
それくらいは当たり前だよ。
ここのお店に来る連中は愛理さん目当ての邪な男ばかり。良太郎くんに親切にするのも愛理さんへのアピールの一環。良太郎くんはまだ十代なんだし、私だけでも大人として頼れる存在で居たい……って言うのはお節介かな。
そもそも、会社をサボるような大人は頼れないか……。
いいや、でもあれから毎日しっかり働いてるし。サボりたくなるくらい嫌な会社なら辞めちゃえばいいんだって気付いて、転職活動もしてるし……!
「戻りました〜。お客様を一人にさせちゃってごめんなさい」
自分を納得させていると、愛理さんがいつものほんわか笑顔で帰ってきた。
「おかえり、姉さん」
「良ちゃん帰ってたの? また怪我してきたのね。咲涼さん、手当てしてくれてありがとうございます」
「いいえ、気にしないで」
愛理さんも帰ってきたし、私はそろそろ戻ろう。まだ昼を過ぎたくらいだけど、明日も仕事だから家でのんびりする時間も必要だ。
「じゃあ、そろそろお暇しますね。また来ます!」
お代を払って店を出る。外は曇り。雨は降りそうにない。……雨が降るって天気予報で言うから、ここまで歩いてきたのに! 自転車で来れば良かったなぁ。
「失敗した……」
肩を落として歩き出す。カバンに入ってる折りたたみ傘も余計な荷物になっちゃったよ。結構重いんだよね、これ。
仕方ない。せめて買い物をしてから帰ろう。確か今日は安売りしてるはずだから。ほら、五の市とか何とかってよく言うでしょ。
卵と、ウインナーと、お味噌と……あとは……。
冷蔵庫の中身を思い出して、必要なものを指折り考えながらスーパーに歩いた。
一人暮らしって買うものに困る。大容量パックの方が割安だけど、欲しい量は少しだけ。冷凍すればいいと言われたってそんな大きな冷凍庫ではない。思い切ってでっかい冷蔵庫とか買っちゃおうかな。
「それはちょっと贅沢しすぎかな?」
角を曲がろうとして一歩踏み出した。そのとき腕を強く引かれ、油断しきっていた私は当然後ろに倒れ込む。
「うわ、わっ!?」
ぎゅっと目を瞑って衝撃に備える。けれど全身を襲ったのはコンクリートの無慈悲な硬さではなく、程よい弾力と柔らかな温かさ。背中を包むように広がるそれはあまり体感しないもの。
直後、カラカラとタイヤの回る音が近付いて、そして遠ざかった。
「クソチャリンコッ! 気を付けやがれッ!」
耳元で響いたそんな声に驚いて目を開けると、すぐ後ろには遠くを睨みつける良太郎くんが居た。
「え、……え」
なに、これ。何で私、良太郎くんに抱き留められてるの。腕を引っ張ったのは誰?
「りょう、たろ、くん?」
混乱が収まらないまま彼の名前を呼ぶ。彼は自転車からこちらへ視線を移し、眉間のシワを深めた。
「お前、ボーッとしてんじゃねぇぞ! 轢かれるところだったじゃねぇか!」
「ごめん……」
良太郎くんはどうやら、自転車に轢かれそうだった私を咄嗟に助けてくれたらしい。
不運を極める彼に怒られるなんて、私かなり上の空だったのかも。ちょっと考え事してただけなのに。
「ぁ、ありがとう! あの……」
「んだよ」
「離してくれると……」
お腹に回された彼の腕は、私の力ではどかせないほど強い。見てるだけでも不安になるほど細くてひょろっとしてるのに、こんなに力があるなんて意外。失礼だけど、そういうイメージはないから。
この状況、良太郎くんとは言えちょっと恥ずかしい。ごめん、これも失礼な言い方だね。でも良太郎くんのことは弟みたいに思ってるの。わりと年下だし、男としては見れない、なのに……!
「……なーに、咲涼ちゃん。照れてるの?」
フッと笑った良太郎くんは腕を離そうとはせず、むしろ少しだけ力を強めた。
「は!? いやいや、ちょっと、離して!」
「いいんだよ、恥ずかしがらなくても」
「ちがっ……」
また雰囲気変わった!? 今は何だか優男すぎるというか、軟派というか……!
「離してって、良太郎くん!」
「うーん、じゃあ、ほっぺにキスしてくれたら離してあげる」
「え!?」
私が何言ってんの!? と叫ぶ前に、私達に影が落ちた。それは高校生くらいの見知らぬ女の子の影で、その子はキッと良太郎くんを睨みつける。
その影に気付いていないのか、それとも気にしていないのか、良太郎くんは「ふふ」と笑った。
「なーんちゃっ……」
「──何してんのよバカッ!」
べちんっ! と頭を叩かれた良太郎くん。その拍子に腕の力が抜けて、私は慌てて彼から逃れた。
良太郎くんは私を見やって「あ〜……」と残念そうな声をあげたあと、女の子を見上げてとても不満そうに抗議する。
「酷いなぁハナさん。叩くことないじゃない」
「アンタが人様に迷惑かけてるからでしょ!? 良太郎、しっかりして!」
ハナさんと呼ばれた女の子に体を前後に揺さぶられ、良太郎くんは小さな溜め息をついた。
「せっかく可愛い子と話せたのに。……またね、咲涼ちゃん」
ひらひら手を振られて反射的に振り返す。良太郎くんは納得したように微笑んだ……かと思えば、頭ががくっと落ちてしまった。
「あ、あの……」
「あ……すみません、驚かせちゃって。何もされてませんか?」
「はい、何も……! えっと、良太郎くんのお友達ですか?」
「え、良太郎……くんの知り合いですかっ? じゃあ私、余計なことしちゃった……!?」
ううん、全く! むしろ本当に助けられた。あのままじゃ一生離してもらえないところだった。あんな強引な良太郎くんは見たことがない。
首を振って応えると、ハナさんはホッとしたように表情を和らげた。
「私は水無月咲涼です。良太郎くんとは……店員と客? くらいの関係ですかね」
「ミルクディッパーの?」
「そうそう! 行ったことあります? コーヒーがすっごく美味しくて通い詰めてるの」
こうやって話していたらまた飲みたくなってきたけど、それはまた今度。
「私はハナ。良太郎とは……友達、ですかね」
