デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
真の恋の道は、茨の道である。
What's your name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
17.さながら兄妹喧嘩。
急遽ミルクディッパーで一夜を明かすことになった私。コーヒーが飲みたくて訪れただけなのに、久々に賑やかな夜を過ごすことになりそう!
なんて、あらすじみたいに述べてみたけれど、本当にどうなることやら。泥棒を捕まえるって意気込むのは良いとしても(いやほんとは良くないけど)、まずは警察に連絡したらいいのに。それをしないのが不思議な姉弟なんだよね。
まぁ愛理さんが『みんな大袈裟なのよ〜』とか何とか言ったんでしょう、きっと。簡単に想像できる。
「咲涼、初めましてやなぁ」
「うん! キンタロスとも話してみたかったんだ」
「そうか? 嬉しいなぁ」
キンタロスが隣に座って、改めて話しかけてくれた。ゾウの着ぐるみっていうのがちょっと残念。どんな顔してるんだろう。
っていうか、着ぐるみの中身ってどうなってるんだろう……気になるけど多分見せてもらえないだろうな……愛理さん達も居るし。
「キンタロスは一番力が強いって聞いたけど、ほんと?」
「おお、当たり前や。俺が一番強い! 力だけやなく、な!」
自信ありげに腕を組んだキンタロス。けれど彼の言葉を聞いたウラタロスがやってきて、「それは聞き捨てならないよ、キンちゃん!」と盛大に抗議した。
「強さは力が全てじゃないよ。柔らかい波だっていつかは岩をも砕くんだからね。僕が一番!」
「いいや、俺や!」
二人がやいやい言い合いしている間もモモタロスはコーヒーを飲んでいる。着ぐるみを着たまんま。
良太郎くんは私と、私の向かいに座るハナちゃんにもコーヒーを出してくれた。そしてモモタロスの方を見やって、不思議そうに首を傾ける。
「……咲涼さん、モモタロスと何かあった?」
小さな声で聞いてくる良太郎くん。ハナちゃんもその疑問に同意するように頷いた。
「私も思ってました。モモはいっつも咲涼さんに話しかけるから、今日は変だなって」
「こういう、“誰が強いか”って話に混ざらないのも変だよね……」
バレバレじゃん。どうしよう、これじゃ“何も無いよ”は通じない。かといって上手い言い訳も思いつかなくて。正直に言うわけにもいかないし……。
ウラタロスの方を見ると、彼は私の視線にすぐ気が付いた。そしてハナちゃんと私、それから良太郎くんの視線の先に居るモモタロスを見比べて、瞬間的に事態を把握したようだった。
キンタロスは未だに「俺の強さはホンマに泣けるで!」などと言っているけれど、ウラタロスはそれをスルーしてこちらの会話に加わる。
「よく聞いてくれたね二人とも。実は先輩、この前咲涼ちゃんに怒鳴っちゃったんだよ」
「え、ウラタロス、それ言っても……」
大丈夫なの? と訴えかけると、彼は“僕に任せてよ”とでも言うように私の肩を抱いた。
「咲涼ちゃんは何にも悪くないのにねぇ……先輩、咲涼ちゃんがお小言ばかりでうるさいって言うんだ。ぜーんぶ先輩のことを思って言ってるのにね?」
「え……う、ん」
「しかもあれをお小言だって言うなんて、失礼にも程があるよ。さすが、先輩の脳みそは干物だね」
「それは言い過ぎじゃないかな……」
あとウラタロス、ちょっと近い。ペンギンの顔が目の前にあるの、すっごく気になる。
「誰が干物だって?」
低い声が聞こえた。みんなでそちらを向くと、モモタロスがすぐ近くに立っていて一様に驚いてしまった。話は聞いてたんだ。いや、聞こえていた、って感じかな。
「あれ〜、聞こえなかった? 先輩のことだよ」
ウラタロスのあからさまな挑発に、モモタロスは特別な反応はしなかった。着ぐるみのせいで表情は読み取れないし、何も言わないから何を考えているのか分からない。
やがて「そーかよ」と吐き捨てた彼は、何を思ったかこちらに近付いてくる。
「どーでもいいけどよ、カメ、てめぇ近ぇぞ」
モモタロスはウラタロスの顔面を掴んで私から引き剥がした。それほど強い力ではなかったのか、勢い余って倒れるということは無かったけれど、ウラタロスが「ぉお、っと……強引だなぁ!」なんて文句を漏らす程度には有無を言わさない行動だった。
「その席寄越せ、クマ」
「おぉう、何や何や」
今度はキンタロスを押し退けたモモタロスは、その椅子にどかっと座りこちらを見た。
帰れって言われるかな。邪魔だとか、お前が居たって仕方ないとか……首突っ込むな、とか。
ぐるぐると悪いことばかり考えていたら、モモタロスが言いにくそうに「あー……」と口を開いた。
「悪かったよ」
「え」
「この間は……言い過ぎた」
気にしてくれてたんだ……。
謝らなくたっていいのに。モモタロスの言うことは間違ってないし、言い方は圧が強くてちょっと怖いけれど、そういう人だもの。
「ううん、私こそ本当に……」
ごめんね、と言おうとしたところで、良太郎くんの手が私とモモタロスの間に差し込まれた。
私達は同時に良太郎くんの方を向き、そして恐らくどちらも少し震えた。少なくとも私は身震いした。
「モモタロス。“悪かった”、じゃなくて?」
パッと見は柔らかい笑顔。いつもこんな風に微笑んでいるのが良太郎くんの素敵なところ。大声で怒ることなんて全然無くて、彼が怒りを露わにするなんて想像すらできない。
けれどこれは、ちょっと怒ってる。
モモタロスは言葉を詰まらせた。ウラタロスやキンタロスは顔を逸らし、明らかに面倒事を避けている。みんな空気が変わったことを察知しているんだ。
「……ゴメンナサイ」
モモタロスが一言謝ると、良太郎くんは伸ばしていた手を戻して頷いた。その瞬間に張り詰めていた空気がふわっと溶けたのが分かる。
改めて、私はモモタロスに向き合った。
「私も、ごめんなさい。みんなにも事情があるのに」
「……いーんだよ、そんなこと」
大きな着ぐるみの手が私の頭を撫でる。手つきは乱暴だけど、ちょっとした優しさも感じる。なんか、モモタロスって……。
「お兄ちゃんみたい」
「はぁ!? 誰が兄貴だよ! もっと何かあんだろ、こう……何つーか……なぁッ?」
「いや、“なぁ”って言われても」
お兄ちゃんじゃないとしたら……お父さん? でもそれはキンタロスの方が似合う気がする。弟って感じでもないしなぁ。
んー………………彼氏? あー、はは、それは、ないか。うん。ほんと、ない。うんうん、そうだよねぇ。
「やっぱりお兄ちゃんが一番合う気がする」
「モモがお兄ちゃんって、なんか違う気がするけどなぁ」
ハナちゃんが首を傾げながら顔をしかめた。
それは多分、ハナちゃんがしっかり者だからだと思います。でもハナちゃんは妹って感じ! 年下だからかな?
