デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
真の恋の道は、茨の道である。
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16.泥棒退治。
コーヒーが飲みたい。安いインスタントじゃなく、豆を挽いて淹れてもらう美味しいやつ。でも、ミルクディッパーには行きにくい。あそこへ行けば良太郎くんが居て、モモタロスのことを思い出してしまう。行かなくても思い出してるけど。
あれからどれくらい経ったかな。二週間くらいかな。
ミルクディッパーには一度も行っていない。けれど、良太郎くんの体を借りたリュウタロスが時々会いに来てくれる。気まぐれにやって来てはお話をして、たまにご飯を一緒に食べて……それだけ。
良太郎くんも、ハナちゃんも、ウラタロスもキンタロスも、みんな元気にやっているらしい。モモタロスのことは「あんな奴どうだっていいよっ!」なんて言って何も話してくれないけど、とりあえず変わりはないんだろう。
……コーヒーが飲みたい。どうしよう。たまには行こうか? モモタロスはもう出てこないだろうし、気にする必要もないよね。別に、モモタロスに会いにミルクディッパーまで行ってたわけじゃないもの。
自分に言い聞かせるように言い訳を並べた。それでも何となく踏ん切りがつかなくて、ベッドの上で寝返りを打つばかり。
「……いや、行こう」
今日行かなければ、きっとずっと行けない。だから行こう。
自転車を走らせ着いたミルクディッパー。ほんの少しの間来なかっただけなのに懐かしい気がする。
扉を開けばベルが鳴り、コーヒーの良い香りがぶわっと広がった。そして目に飛び込んできたのは見慣れた景色……かと思ったら、想像していなかった光景だった。
「……え、どういう状況?」
まず目に飛び込んできたのは三人の着ぐるみ。ゾウ、ペンギン、オオカミ。
それから陰陽師みたいな格好をした三浦さん、大きなスーツケースを持った尾崎さん、良太郎くんにハナちゃん、良太郎くんと同年代っぽい見知らぬ青年。
愛理さんはカウンターの向こうで作業をしていたけれど、私に気付いて「お久しぶりです、咲涼さん」と優しく微笑んでくれた。
それをキッカケにみんながこちらを見た。そんなに注目されるとは思ってなくて変に緊張してしまう。
「咲涼さん!」
ハナちゃんが駆け寄ってくる。「久しぶりだね」と声をかければ彼女は大きく頷いた。
「えーっと、ごめん、聞きたいことがいっぱいあるんだけど……何でこんなに人が居るの? なんかのイベント?」
「咲涼さんは知らないの? 泥棒が入ったんですよ!」
「泥棒? ここに?」
ミルクディッパーには価値のありそうなものなんて見当たらないのに。せいぜい、目立つ場所に置かれているあの望遠鏡くらいじゃない?
ハナちゃんは握り拳を作った。ずいぶん気合いが入っている様子。……まさか。
「──だから泥棒退治に来たんですッ!」
なるほど。状況を整理しよう。
まずミルクディッパーに二人の泥棒が入った。一旦は良太郎くん(の中に入ったモモタロス)が追い払ったけど、捕まえることはできなかった。
泥棒達はまた来るだろうから、取っ捕まえるためにそれぞれ思案して、結果的にこの人数が集まった。
三人の着ぐるみはモモタロス、ウラタロス、キンタロス。リュウタロスは『泥棒退治なんて楽しくないよ〜。お姉ちゃんが危なくなったら行くけど!』と言ってデンライナーに残っている。
見知らぬ青年は桜井侑斗くん。良太郎くんのお友達……仲間? らしい。桜井くんは否定しているけど。彼は偶然この店に来ただけで、泥棒の件は知らなかったっぽい。私と同じで。
三浦さんと尾崎さんはどうせ愛理さんへのアピールでしょう。
「じゃあ、みんな今日はここに泊まるの?」
「泊まるっていうか……夜通し泥棒を待つっていうか……」
良太郎くんが首をひねりながら言った。こんなに人が居たら泥棒は逃げちゃうんじゃないかな……。
「咲涼ちゃんは? せっかくだし一緒に夜の釣りを楽しまない?」
ペンギンの着ぐるみを着たウラタロスが私の顔を覗き込んだ。なに、この絶妙に可愛くない顔。笑いそうになっちゃう。
「うーん……」
悪くない提案ではある。明日も休みだし、楽しそうだし。
「……でも、私が居たら気まずくない?」
オオカミの中に居るのはモモタロス。きっと私の顔だって見たくないだろう。今も背中を向けてて、話を聞いてるんだか聞いてないんだか……。
「気まずいことあるかいな。咲涼と話してみたいと思うとったんや、俺にとっては良い機会やで」
ゾウの着ぐるみが私の肩を叩いて話しかけてくる。これがキンタロス。男らしい豪快さを感じる。
キンタロスに同調するようにウラタロスやハナちゃんが頷いた。良太郎くんも、控えめだけどしっかりと。
「咲涼さんが嫌でなければ、僕らは嬉しいですよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて!」
良太郎くんがそう言ってるんだもの。大丈夫。
ウラタロスやキンタロスも居るし、何よりモモタロスの手綱を握れるハナちゃんだって居る。
それに、いつかモモタロス達が居なくなっちゃうなら……今のうちにたくさんの思い出を作っておきたい。
だから、やろう。泥棒退治。
