デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
真の恋の道は、茨の道である。
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15.後悔はしない。
「──なんや桃の字。腹の調子でも悪いんか」
「キンちゃん、先輩はこのところご機嫌ななめなんだよ」
「そうなんか」
クマとカメの会話を聞き流し、俺はコーヒーを飲み干した。
腹の調子はいつだって良い方だ。機嫌だって悪かねぇ。俺はいつも通り。これが普通だ。
「キンちゃんは寝てたから知らないだろうけど、先輩ったら咲涼ちゃんに怒鳴っちゃって……」
「桃の字……」
何してんだって顔のクマ。一昨日のことなんかもう覚えてねぇよ。
あれからねーちゃんの店には来てねぇようだが、ハナタレ小僧は良太郎の体を使って会いに行ってるみてぇで、まぁ元気らしいってのは小耳に挟んだ。
けどよ、それが何だってんだ。アイツは特異点でも無けりゃ電王の使命に関わる人間でもねぇ。どこで何をしていようがどうだっていいだろ。
「あんな女のことなんざ知らねぇよ」
細い窓から外の景色を眺めた。地平線に広がる砂、砂、砂……たまに岩。変わんねぇ光景だ。
良太郎の体を使って出掛けるか、とぼんやり考えていたら、視界がふっと暗くなった。顔を動かすとライトと俺の間にハナタレ小僧が立っているのが見えた。
「咲涼ちゃんに八つ当たりしてたじゃん!」
ハナタレ小僧が俺の前のテーブルを叩く。そして「咲涼ちゃん、悲しそうにしてた!」と続けた。
「あー、そーかよ」
「なんだよっ! モモタロスのバカっ!」
「ちょっとリュウタ……!」
暴れ出しそうな小僧。それを止めるカメ。クマは何も言わないが側に立っている。いつでも止められるように待機してんだろ。
俺を悪者にしてぇならそうしやがれ。けどよ、悪者にだって言い分くらいあるぜ。
「……そもそもな、お前が余計なこと言うから話が拗れてんだぞ」
「先輩!」
小僧を止めていたカメが、今度は俺の肩を押さえる。だが俺はそれを振り切ってハナタレ小僧の前に立った。
「僕が悪いって言いたいの!?」
「原因はお前だって話だ。とにかくアイツにはこれ以上何も話すな。会うのもやめろ」
小僧はむっと口を閉じた。そして「僕に指図しないでっ!」と俺の胸を殴り、食堂車の隅っこの椅子に丸く座り込んだ。
カメが小僧の所へ行き、何か話しているのが見える。アイツはいつもそうだ。ハナタレ小僧に構ってやるのは大体カメの役目。
クマは不器用だし、俺は論外。そうなればハナタレ小僧をなだめてやれるのはカメしか居ない。
「ちっ……」
俺は壁に頭と背を預けるように座った。するとクマがテーブルの向こうに陣取った。話が終わったのかカメもこちらへ来て、背中合わせの椅子に座り俺の方を向く。……何だよ、俺を挟んで。
「あのさ先輩……良太郎はまた今度でもいいけど、咲涼ちゃんには今話しておくべきじゃない?」
目線をカメに向けると勝手に話を続けた。
「今話しておかなきゃ、咲涼ちゃんはきっと僕らを許してくれない」
「許してもらう必要なんかねぇだろ」
……どうせ俺らは消えちまって、会えなくなるんだからよ。オーナーのおっさんはよく『記憶こそが時間』だって言ってるが、記憶なんざあったって俺達の時間は消える。良太郎とハナクソ女が俺達のことを忘れないとしても……時の運行を守ればイマジンは居なくなる。最初から無かったことになる。ハナクソ女の居た世界みてぇに。
そうだろ。なんか間違ったこと言ってるか? アイツは何でか俺らを慕ってくれてるけどよ、だとしても……。
「……忘れるんなら意味がねぇ」
「桃の字」
ずっと黙っていたクマが口を開いた。いつもと同じ、何を考えてんだか分かんねぇ顔だ。デカくて細い目はどこを見てんのか察するのも難しい。ま、視線てのは見えなくても分かりやすいもんだが。
実際、クマが俺を真っ直ぐ見ているのがよく分かる。
「大事なのは結果だけやない。桃の字が後悔しない道を選び」
「……うるせ。ほっとけ」
それっぽいことを言うのはやめろ。俺をガキみてぇに扱いやがって。
「キンちゃん、お父さんみたいだね〜」
「そうか?」
「うんうん、さすが年長者って感じ」
俺を挟んで呑気に雑談し始めた二人。それがうるせぇの何のって。
「話が終わったならどっか行きやがれ!」
俺が叫ぶように言うと、二人は「はいはい」「しゃあないなぁ」などと言いながらのそのそと離れていった。
……分かっちゃいる。二人が俺のことを思ってるんだろうってのは。まだまだ短ぇ付き合いだが、良い奴らではあるのは間違いねぇ。
ハナタレ小僧もわざとじゃねぇことは薄々感じてる。それこそアイツはガキだ。話しても良いことと黙っていた方がいいことの区別がつかねぇ。だから、聞かれたから答えた。それだけだ。
つっても余計なことをベラベラ喋っていいってことがあるかよ。ましてや咲涼に無意味な心配なんてさせるもんじゃねぇだろ。もう遅ぇけどな。
カメもクマもああ言ってるが……俺は消えるんだ。どんな道を選んでも後悔することはねぇよ。それすら、できなくなるんだからな。
