デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
真の恋の道は、茨の道である。
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14.イマジンの未来。
翌日。休日だからと好きなだけ二度寝、三度寝をかましていたら、気付けば時刻は昼近く。さすがにまずいと体に鞭打ちベッドから這い出た。
冷蔵庫には大したものは無くて、仕方ないから買い物に行くことにした。いつも仕事終わりにスーパーに寄るけど、昨日はそんな余裕無かったしなぁ。
ひとまず食パンをかじって、適当な服に着替えた。カバンに財布、手には自転車の鍵。
外へ出ると眩しい太陽が辺りを照らしている。自転車を漕ぐには暑すぎるかもしれないけど、最高の天気!
「何か安売りしてたらいいな〜」
独り言を呟きながらスーパーへ向かった。すると前方から誰かがスキップをしながら近付いてきて、やがて大きく手を振った。
後ろを見ても誰も居なくて、その人は未だに手を振っていて。つまりこれ、私ってこと……?
とりあえず振り返してみたら、その人は目にも止まらぬ早さでこちらへ走ってきた。帽子が落ちるのも構わずに。
そうして姿がよく見えるようになってきたところで、ようやくその人の正体が分かる。つい昨日見たばっかりだ。
「咲涼ちゃんっ!」
「リュウタロス? 何してるの、こんな所で!」
彼はニコニコしながら「咲涼ちゃんに会いに来たんだよっ」と当然のように言う。
会いに来てくれるのは嬉しいんだけど、良太郎くんは仕事中なんじゃない? 大丈夫かな? ミルクディッパーは休業日だったっけ?
「咲涼ちゃん、どこ行くの?」
私の心配をよそに、リュウタロスは首を傾げて尋ねてきた。買い物だよ、と答えると「僕も行く!」と笑った。
少し悩んだけれど……考えてみれば良太郎くんは自分の体なんだし、リュウタロスに好き勝手されるのが嫌なら表に出てくるよね。だったら、今は大丈夫ってことだ。
それにリュウタロスを放置するのも不安。お買い物に付き合ってもらうのはちょうどいいかもしれない。
「じゃあ、行こうか」
「おー!」
自転車を降りて一緒に歩いた。隣で色んな話を聞かせてくれるリュウタロスは、やっぱり可愛い雰囲気を感じる。キンタロスが良太郎くんの体に入ったらどんな感じなんだろう。
ニコニコしながら話す彼を見ていると、やっぱりデンライナーで過ごす時間が羨ましく感じる。いっそモモタロス達と出会わなかったら無いものねだりもしなかったのに。
「リュウタロスは、みんなと居るの楽しい?」
何気なく聞いた質問に、リュウタロスは「う〜ん……」と悩んだ。
「みんなのことは嫌いじゃないけど、僕は良太郎のことやっつけなきゃいけないから」
「やっつける?」
「うん。そのために未来から来たんだよ。良太郎をやっつけたら時の列車の車掌にしてくれるんだって。でも良太郎が死んだらお姉ちゃんが悲しむから、まだやらない」
……やっつけるって、どういう意味? 死んだらって、なに?
リュウタロスは良太郎くんを殺すつもりなの? 何のために? 良太郎くんがイマジンと戦っているのが邪魔だから?
……そもそも、イマジン達は過去を変えてどうしたいんだろう。未来を壊して、その結果に何が得られるんだろう。
色んな疑問が溢れる。これって聞いていいこと? 私は完全な部外者なのに、首を突っ込んじゃいけないんじゃないの?
「……ねぇ、リュウタロス」
それでも、聞かずにはいられなかった。
「イマジンは過去を変えようとしてるよね。何のために過去を変えるの?」
「簡単だよ。僕らの未来に繋げるんだ。過去を変えなきゃ、僕らイマジンは──」
リュウタロスは何かを言おうとしたまま止まった。同時に歩みも止まり、ぼんやりと宙を見つめている。……目の色が違う……気がする。
彼はこちらを見た。雰囲気が変わったのは何となく分かる。けれど、誰なのかは分からない。
「……何だっていいじゃねぇか。俺達は良太郎に憑いてイマジン共と戦う。それだけだ」
彼は……モモタロスは、大きな舌打ちをした。垂れた前髪を鬱陶しそうに掻き上げては溜め息をつく。「ハナタレ小僧がべらべら喋りやがって」と忌々しそうに呟き、ポケットに手を突っ込んで歩き出した。
私は一歩が踏み出せなくて、その場に留まったまま疑問を投げかけた。
「待って……過去を変えなかったら、イマジンはどうなるの?」
「どうもしねぇよ」
「うそ!」
モモタロスは振り返った。いつもと違って眉間のシワは無い。
「嘘じゃねぇ。
「何それ。そんなの屁理屈じゃん!」
「屁理屈の何が悪ぃ」
……そう。つまり、踏み込んでくるなってことか。モモタロスの言いたいことは分かった。確かに私には関係ない話だもんね。よく分かった。
「いいよ、別に答えてくれなくても。……私だって馬鹿じゃないんだから、何となく分かるし」
リュウタロスは言った。『僕らの未来に繋げる』と。未来とか時間とか、そういうのよく分かんないけど……本当の未来にはイマジンは居ないってことなんでしょ。過去を変えれば未来も変わるから、イマジンも存在できる。
そうでしょ。
今まで本だって読んできたし、色んな映画も見てきた。似たような話はいくらでもあったよ。それにリュウタロスは言葉を選ばずに説明してくれたから、想像するのは難しくない。
「良太郎くんは知ってるの? そのこと」
「……」
知らないんだ。モモタロスってほんと分かりやすい。
「言った方がいいよ……良太郎くんと一緒に戦ってるんでしょ」
「うるせぇな!」
モモタロスは声を荒らげた。いつも怒っている印象が強いけど、今の彼は本当にイライラしている。こんな風に怒鳴ってくることなんて、無かったもの。
「これは俺達の問題だッ! てめぇにどうこう言われる筋合いねぇんだよッ! しゃしゃり出て来んなッ!!」
「……、……ごめん」
謝るくらいなら何も言わなければいいのに、どうして私は余計なことしかできないんだろう。仲良くなったつもりでも、別に私は彼らの仲間じゃない。友達ですらない。
「ッ……フン」
モモタロスは口を閉ざした。私も何も言えなくて気まずい時間が流れる。
どうしようか悩んでいたら、彼が口を開いた。
「……ごめんね、咲涼ちゃん」
モモタロスの喋り方じゃない。じゃあ誰? ウラタロス……それともリュウタロス?
「えっと、」
「あはは、リュウタと区別つかないかな……ウラタロスだよ」
ウラタロスはやや気まずそうに髪の毛を触った。いつも饒舌な彼には珍しく、何か言いたげに目を揺らしている。
「その……リュウタと先輩が迷惑かけたね。さっきの話は良太郎やハナさんには内緒にしてくれるかな」
「……うん」
「ありがとう。……先輩も分かってるんだよ、話さなきゃいけないことだっていうのは。でも簡単に伝えられることでもないんだ。良太郎は全部背負っちゃうからね」
別に先輩のフォローをしてるわけじゃないよ? と軽くウインクするウラタロス。うそつき。優しいくせに。
「今は咲涼ちゃんが知っていてくれたら、それでいいよ」
私なんかでいいの? と思うと同時に、私であることが嬉しかった。無言で頷くと、ウラタロスは同じように「うん」と頷いてから思い出したように手を叩く。
「あ、そうそう。昨日はリュウタがお世話になったみたいだね。ありがとう。今度は僕にも手料理を振る舞ってほしいな」
「もちろん。ウラタロスの好きな食べ物、教えてね」
たくさん練習して、とびっきり美味しいのを用意するから。
