デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
真の恋の道は、茨の道である。
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13.龍との出会い。
「──疲れた……」
今日は久々に残業だった。夏は日が長いとは言え辺りは真っ暗。女一人で歩くには危ないけれど、帰らないことにはゆっくり休むこともできない。駅から自宅までの道を足早に進んだ。
唯一の救いは電車が空いていてゆったり座れたこと。いつも人だらけで息苦しいから。
「ふん、ふ〜ん♪」
どこからか鼻歌が聞こえる。それは少しずつ大きくなってきて、誰かが近付いていることを示していた。
誰も居ない道って楽しいよね。私もたまに歌ったりしちゃう。そういうときに限って後ろに人が居たりするんだけど!
「ふん、ふ…………あれ、咲涼ちゃん?」
「えっ?」
鼻歌が止まり、代わりに若い男性の声が聞こえた。それは聞き覚えのあるものだったけど、聞き馴染みのない呼び方だった。
声のした方を見ると、見慣れた顔の青年が立っていた。珍しく帽子を被って、夏に着るには暑そうな長袖のジャケットを羽織って。
「わぁ! ほんとに咲涼ちゃんだ! 会いたかったよ〜!」
「うわ、わっ!?」
彼……良太郎くん(の顔をした誰か)は私をぎゅっと抱きしめた。そして軽く持ち上げ、ドラマのワンシーンみたいにくるっと回った。
ドキドキする、色んな意味で……!
一度では飽き足らず何度か回した末、ようやく満足したのかそっと私を下ろした彼。良太郎くんはあまりしない、満面の笑みを惜しげもなく披露している。
全てがいきなりのことで心臓が驚いてる。大きく深呼吸をして……うん、やっと落ち着いてきた。私は彼の目を真っ直ぐ見つめた。
「こんばんは。貴方は……リュウタロスかな?」
「え! 分かるの?」
「うん」
会ったことがあるのはモモタロスとウラタロス。でもその二人とは雰囲気が似ていない。キンタロスは関西弁で話すって聞いてるし、イメージも全然違う。そうしたら、考えられるのはリュウタロスしか居ない。
それに、すっごく可愛い感じがする!
「初めまして。私も会いたかった!」
「咲涼ちゃんも? うれしい! でもでも、僕はずーっと見てたよ! モモタロスが邪魔するから会いに来れなかったけど!」
「モモタロスが?」
ウラタロスも言ってたなぁ、モモタロスがどうのこうのって。それって何なんだろう。やっぱり私を盗られるのが嫌なのかな? なんて。
「っていうか、咲涼ちゃん、こんな所で何してるの? もう夜だよ?」
「私は仕事終わり。家に帰るところだよ」
「えー! こんな時間まで働いてたの!?」
毎日じゃないよ、毎日じゃ。こういう日もあるってだけで。私だって早く帰りたいし……。
「リュウタロスは何してたの?」
「僕? うーん、ちょっと散歩……」
「そっか。でも寝ないと疲れちゃうんじゃない?」
それともイマジンは寝なくても平気なのかな。
私が首を傾げると、リュウタロスは「そうなんだけど……」と言葉を濁した。寝たくない理由でもあるの? ……まぁ、そういうこともあるよね。
「……散歩中なら、良かったらうちにおいでよ。美味しいコーヒーは出せないけどね」
「え! 行きたい!」
「決まり!」
リュウタロスを連れて帰宅した。部屋はちょっと汚いけど、大丈夫だと思いたい。
「適当に座ってて。今ホットミルクか何か作るね。……私も軽く食べるもの作ろうかな」
まともな夜ご飯なんて食べてない。おかげでお腹空いちゃってたまんないよ。簡単に作れるもの……チャーハンとか? 余れば明日の朝に回したっていい。
マグカップやフライパンを用意していると、リュウタロスが後ろから覗き込んできた。
「ご飯?」
「うん。チャーハン作るの。……リュウタロスも食べる?」
「いいの!?」
味の保証はしないけどね、と予防線を張り、冷蔵庫からご飯や卵、ねぎを取り出した。肉類は……大した材料は無いな……ウインナーでいいや。
「ナオミちゃんが作ったチャーハンはたまに食べるんだ〜」
「ナオミちゃん……デンライナーで働いてる人だっけ」
「うん! 料理は上手だし、コーヒーも美味しいんだよ!」
料理上手……そうなんだ。客室乗務員なだけある。ハナちゃんや良太郎くんも料理は美味しいって言ってたなぁ。コーヒーについては何も聞いたことがないけれど。
そんな人のご飯を食べ慣れているリュウタロスが、私なんかのチャーハンで満足してくれるかな。結構心配。
リュウタロスは私の作業を隣で見ていた。フライパンを軽く振って見せると小さく手を叩いて喜んだ。
具材にある程度火を通して、チューブの中華調味料や塩コショウを入れて少し炒めたら完成。お店のようにパラパラには作れないけど、味はそれなりだと思う。チャーハンには中華調味料を入れておけばいいのよ。
お皿に盛ってスプーンを用意。テーブルの上を片付けて向かい合って座る。リュウタロスは目を輝かせていた。
「いただきます!」
「はい、どうぞ」
リュウタロスが食べ始めたのを見て、私も口をつけた。……うん、今日も普通に美味しい。でもやっぱりペチャッとしてるだけで味が落ちる気がする……家でもパラパラにできる方法ってないかな。
リュウタロスの様子を見ると、彼はニコニコしながら食べ進めていた。ひとまず口に合ってはいるみたい。良かった……。
やがてリュウタロスは手を合わせた。
「……ごちそうさまでした! すっごく美味しかったぁ!」
「ほんと? 良かった」
「うん! 僕、咲涼ちゃんのご飯すき! ねぇねぇ、また食べに来てもいい?」
私はもちろん頷いた。次はもっと美味しいものを用意しなくちゃね。オムライスとか……シチューとか? お子様プレートみたいに色々作って、旗を立てるのもいいかも! ……それは子供扱いしすぎかな?
「……もうこんな時間かぁ。僕、そろそろ帰るね。良太郎が起きてきちゃう」
リュウタロスは唇を尖らせながら立ち上がった。送らなくて大丈夫? と聞いたら「僕そんな子供じゃないよ!」って怒られちゃった。
仕方ないから玄関まではお見送りすることにして、私も立ち上がる。
「気をつけて帰ってね。物騒だから」
「大丈夫だよ。咲涼ちゃん、心配しすぎ!」
そりゃまぁ、リュウタロスは幼く感じるし、体は良太郎くんだし、心配にもなるよ。ましてやこんな時間に出歩くなんて危ないったらありゃしない。
「また来てね」
「うん! ばいば〜い!」
るんるんで去っていくリュウタロスの背中をしばらく見ていた。やがて彼は角を曲がって見えなくなったけれど、何となく名残惜しくてしばらくブロック塀をぼんやり眺めていた。
「……さて、寝ないと」
今度、プリンとか作ろうかな。
