デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
真の恋の道は、茨の道である。
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11.正直者の嘘。
──一緒にソフトクリームを食べた日から、モモタロスがやけに優しい感じがする。
ミルクディッパーに行けば絡みに来るし(これは元々か)、愛理さんに頼んでクッキーとかお菓子のサービスをしてくれるし(愛理さんに許可を取る辺りしっかりしてるね)、夜遅くなったら家の近くまで送ってくれたり(愛理さんに言われなくてもやっちゃうんだから)……。
乱暴な口調や荒々しい態度は変わってないけど、なんか違和感がある。もちろん嫌ってわけじゃない。ただ、モモタロスってこういうことする人だっけ……と思って。
「それでよ、クマの野郎が……」
モモタロスは今日も私の隣を陣取って、デンライナーで起きたことを話してくれている。私も乗れたらいいのにな。チケットとかパスとか、どうやって手に入れるんだろ。どこかで売ってたりしない? しないか……。
「ねぇ、話してくれるのは嬉しいけど、仕事はいいの?」
「あ? おう、今はやることねーよ」
「ふ〜ん。ちゃんと仕事覚えてるんだ」
他の人には聞こえないよう小さくからかうと、モモタロスは小さく言葉を詰まらせた。
「お、覚えようと思って覚えたわけじゃねぇ。たまたまだ、たまたま」
「たまたま仕事覚えるってなに」
へんなの。モモタロスってほんと面白い。
「まぁいいや。もっと聞かせてよ」
「おう、いいぜ。好きなだけ聞かせてやる」
モモタロスがまた、他のイマジンやハナちゃん、デンライナーのオーナーさんのことを話し始めた。
モモタロスが話してくれることはどれも新鮮。デンライナーにはお風呂もあるんだって。モモタロスは泳げないからお風呂で泳ぎの練習をするらしいんだけど……普通に迷惑じゃない? それ。
私は彼が話してくれることをずっと聞いていた。すると尾崎さんと三浦さんが近くに来て、不思議そうに私達を見る。
「最近、良太郎くんと咲涼ちゃんって仲良いよね〜」
「馬鹿め、これは良太郎くんではない! 悪霊だ……!」
尾崎さんの言葉に三浦さんがツッコミを入れた。モモタロスはそんな二人を鬱陶しそうに見ている。いつにも増して眉間のシワが深いもん。
「うるせぇぞ、てめぇら」
「てめぇ……!?」
モモタロスは良太郎くんの口調を真似る努力は全くしない。そのせいで今だって二人が驚いている。そりゃあ、良太郎くんの顔で“てめぇ”と言われたら驚くでしょうね!
これでどうして愛理さんにはバレていないのか、本当に本っ当に不思議。こんなの誰だって気付くはずなのに。
私は小さく溜め息をついた。モモタロスの意識を変える必要がある。
「そんな言い方したらダメだって」
「仕方ねぇだろ。うるせぇもんはうるせぇんだからよ」
面倒くさそうに頬杖をついて、二人を指差すモモタロス。確かにこの二人は面倒なところがあるけど、それはそれ。少なくとも良太郎くんの中に居るときくらいは擬態しないと。
でもまぁ、どっちにしろ尾崎さんと三浦さんは、良太郎くんの良太郎くんらしくない一面を知っているみたいだし……取り繕う必要もないかも。
「確かに仲良しだよね〜、私達」
「まぁな!」
最近はモモタロスとばかり話してる。友達も忙しそうで会うタイミングが無いから、ミルクディッパーでモモタロスや良太郎くんと話す時間はとても大切。
「咲涼ちゃん、悪霊と関わっちゃダメだ!」
三浦さんが大きく首を振った。頑なに悪霊って呼びますね。モモタロスは別に、悪い人じゃないけれど。
苦笑いを返すと、モモタロスが大きな舌打ちと共に立ち上がった。
「てめぇにとやかく言われる筋合いは無ぇ! 大体、咲涼に対して距離が近ぇんだよッ!」
今にも三浦さんの胸倉に掴みかかりそうなモモタロス。店内に響いてしまった声。当然、みんながこちらを向く。
「す、すみません! 何でもないですから! 愛理さん、ちょっと良太郎くんのこと借りていいですか!?」
「はい、いいですよ〜」
声を荒らげた弟を気にした様子もない愛理さん。本当に大らかすぎる。
モモタロスの腕を掴み、逃げるように店の外へ出た。彼は口をへの字に曲げて、子供のようにむすっとしている。あの男が気に食わないって顔に書いてある、でかでかと。
「……モモタロス、バレたら大変なんじゃないの?」
「知るかよ」
「何でそんな怒ってるの」
「俺はいつも通りだ」
いつも通りと言えば確かにそうかもしれない。普段から声は大きいし、語尾は強いし。でも毎日こんなにイライラしてる? してないよね。
「そんなに二人がうるさかった?」
「違ぇ」
「悪霊って言われたのが嫌だった?」
「違ぇよ」
私の方を見ようともせず、素っ気なく答えるモモタロス。子供みたい。
何だろう。全然分かんないな。
「分かった、私が盗られると思ったんでしょ!」
「はぁッ!?」
モモタロスは目を見開いてこちらを向いた。その瞳が一瞬だけ炎のように赤く見えて、綺麗だなぁなんて……思っちゃった。
「うそうそ、冗談。そんなわけないよね」
「……まぁ、間違ってはいねぇかもな」
「え」
モモタロスにしては珍しい小さな声。なに、どういうこと。
彼は私の真っ直ぐすぎる視線から逃れるように顔を逸らして、腕組みをした。
「お前と話せなくなったら、ハナタレ小僧が喧しいからよ」
「リュウタロスが?」
どうして? 一度も話したことなんてないのに、何でここでリュウタロスの名前が出てくるの?
次から次へと疑問が湧く。するとまた足元から声が聞こえた。
「先輩の嘘って珍しいね〜」
「ウラタロス! 嘘って?」
砂の体で地面から生えているウラタロスは、やれやれって言いたげに首を振って腰に手を当てた。腕が上下に分かれちゃってる。
「確かにリュウタは、咲涼ちゃんのこと好きみたいだよ。愛理さんを慕うみたいにね。良太郎に憑いて会いたい気持ちもある。でも先輩が……」
「黙っとけカメッ!」
何か言いかけたウラタロス。けれどモモタロスが彼を蹴ったせいで、ウラタロスの体は散り散りになってしまった。
「あー! 今いいとこだったのに!」
「カメ野郎こそ嘘つきなんだ。聞く必要なんか無ぇ!」
「そうかもしれないけど……」
それとこれとは話が別でしょ。嘘かどうかは聞いてから自分で考える……つもりだったのに。
あーあ。どうせモモタロスは話してくれないだろうし、結局よく分かんないままじゃん。
……でも、きっと悪いことではない。嫌われてもいないし、これからも話したっていい。そうやって自惚れてもいいよね。
