I Say A Little Prayer
やっとの事で眠りについた息子を、エリンはそっとベッドに置き、静かに毛布をかけてやった。
すると、彼は眠っている筈なのに目を閉じたまま微笑んだ。二度ほど続けて口角が上がったのだ。
「楽しい夢でもみたのね」
彼女は囁きながら彼の髪を撫でた。
こんな時は愛しさで胸がいっぱいになる。
愚図って泣き止まなくても、夜なかなか眠ってくれなくても、何だか分からない理由で玩具を繰り返し落とされたりしても。
そして誰にも分からない不安と焦りに駆られて酷く落ち込まされる事があっても。
この子の微笑みは何にも勝る。
子供は、赤ん坊の頃に一生分の愛を与えてくれるという。
ベビーチェストの上に目をやった。そこには同じような大きさ、デザインの小さなクマのぬいぐるみがいくつも並べられていたが、よく見ると首に一つ一つ違う色のリボンが結びつけられていて、それら全てに同色の糸で文字が刺繍されていた。
『Happy Anniversary for(お誕生日の記念に)』の言葉と共に彼女のイニシャルが。
そしてクマの足の裏には数字が刺繍されていて、きちんと数えると数字は十八まであった。
これは名を知らぬ相手からの贈り物。
彼女が十八歳になるまで、誕生日を迎える頃になると毎年贈られてきたものだった。
「これは誰からの?」
両親に尋ねると「遠くに住んでいるおじさんからだよ」と返事があり、幼い頃はその言葉を素直に受け取っていた。
十二歳になった時、両親に似ていないことを級友に揶揄され、憤慨してその事を彼らに告げると「お前は養子なんだよ」と答えが。
ショックだったが、両親はとても愛情深く、そのこと以外何の不満もなく大切に育てられてきた為、彼らを困らせるようなマネはしなかった。
十八の誕生日、またぬいぐるみが届いたがその時初めて「誕生日おめでとう!」の言葉以外のメッセージカードが添えられていた。
『もう大人だからぬいぐるみはこれっきりにします。でもあなたの成長をこれからも見守っています』
名も知らぬ誰か。
初めは本当の両親かと思っていたが、義父母に内緒で調査をした時、母親は自分を産んだ後すぐに亡くなっていて、父親は誰だか分からないという事実を知らされただけだった。
見知らぬ誰か。
赤ん坊の頃、すぐに今の両親に引き取られたと言うが、時折思い出すことがあった。
公園のような子供がたくさんいる場所へ行くと、何故だか懐かしい気持ちになり胸が詰まるような思いがする。
「次は私よ!」
「ダメ! 今度は僕だから!」
ベビーカーに息子を乗せて近所の公園へと散歩に行った時だった。
通りがかったベンチに子供を三人連れた父親が座っていたが、彼が抱いている赤ん坊を、その二人の子供がどちらが先に抱っこしてやるかともめ始めた。
「待って待って順番だよ。さっき車を押してくれたのはお姉ちゃんだったから今度はショーンの番だね」
父親は上手く彼らをなだめ、赤ん坊をショーンと呼んだ男の子に抱かせてやった。
赤ん坊は男の子に抱かれるとアウアウと機嫌の良い声を洩らし、ニコニコと微笑んだ。それを見て、男の子も微笑み、父親と姉も微笑んだ。
つられてエリンも微笑んだ。
義父母に引き取られる前は、数ヶ月里親のところにいたと聞いたが、彼女の記憶の片隅にはもっと多くの子供達の気配があった。
そして。
男の人の大きな手と。
珈琲とお菓子の匂いと。
『エリン、私達はずっとあなたを見守っていますよ』
Fin
2013.07.05 了
すると、彼は眠っている筈なのに目を閉じたまま微笑んだ。二度ほど続けて口角が上がったのだ。
「楽しい夢でもみたのね」
彼女は囁きながら彼の髪を撫でた。
こんな時は愛しさで胸がいっぱいになる。
愚図って泣き止まなくても、夜なかなか眠ってくれなくても、何だか分からない理由で玩具を繰り返し落とされたりしても。
そして誰にも分からない不安と焦りに駆られて酷く落ち込まされる事があっても。
この子の微笑みは何にも勝る。
子供は、赤ん坊の頃に一生分の愛を与えてくれるという。
ベビーチェストの上に目をやった。そこには同じような大きさ、デザインの小さなクマのぬいぐるみがいくつも並べられていたが、よく見ると首に一つ一つ違う色のリボンが結びつけられていて、それら全てに同色の糸で文字が刺繍されていた。
『Happy Anniversary for(お誕生日の記念に)』の言葉と共に彼女のイニシャルが。
そしてクマの足の裏には数字が刺繍されていて、きちんと数えると数字は十八まであった。
これは名を知らぬ相手からの贈り物。
彼女が十八歳になるまで、誕生日を迎える頃になると毎年贈られてきたものだった。
「これは誰からの?」
両親に尋ねると「遠くに住んでいるおじさんからだよ」と返事があり、幼い頃はその言葉を素直に受け取っていた。
十二歳になった時、両親に似ていないことを級友に揶揄され、憤慨してその事を彼らに告げると「お前は養子なんだよ」と答えが。
ショックだったが、両親はとても愛情深く、そのこと以外何の不満もなく大切に育てられてきた為、彼らを困らせるようなマネはしなかった。
十八の誕生日、またぬいぐるみが届いたがその時初めて「誕生日おめでとう!」の言葉以外のメッセージカードが添えられていた。
『もう大人だからぬいぐるみはこれっきりにします。でもあなたの成長をこれからも見守っています』
名も知らぬ誰か。
初めは本当の両親かと思っていたが、義父母に内緒で調査をした時、母親は自分を産んだ後すぐに亡くなっていて、父親は誰だか分からないという事実を知らされただけだった。
見知らぬ誰か。
赤ん坊の頃、すぐに今の両親に引き取られたと言うが、時折思い出すことがあった。
公園のような子供がたくさんいる場所へ行くと、何故だか懐かしい気持ちになり胸が詰まるような思いがする。
「次は私よ!」
「ダメ! 今度は僕だから!」
ベビーカーに息子を乗せて近所の公園へと散歩に行った時だった。
通りがかったベンチに子供を三人連れた父親が座っていたが、彼が抱いている赤ん坊を、その二人の子供がどちらが先に抱っこしてやるかともめ始めた。
「待って待って順番だよ。さっき車を押してくれたのはお姉ちゃんだったから今度はショーンの番だね」
父親は上手く彼らをなだめ、赤ん坊をショーンと呼んだ男の子に抱かせてやった。
赤ん坊は男の子に抱かれるとアウアウと機嫌の良い声を洩らし、ニコニコと微笑んだ。それを見て、男の子も微笑み、父親と姉も微笑んだ。
つられてエリンも微笑んだ。
義父母に引き取られる前は、数ヶ月里親のところにいたと聞いたが、彼女の記憶の片隅にはもっと多くの子供達の気配があった。
そして。
男の人の大きな手と。
珈琲とお菓子の匂いと。
『エリン、私達はずっとあなたを見守っていますよ』
Fin
2013.07.05 了
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