I Say A Little Prayer

 柔らかな色合いの夕暮れ時。
 日中の喧騒と夜の静寂が混ざり合う僅かな時間。
 夜明けと共に、見る者の心をざわつかせる美しさに満ちている。不可思議な時間。

 チョコレートに伸ばされたLの手がふと止まった。
 「…泣き声が……」
 「はい、何でしょう?」
 ワタリは紅茶を淹れながらLの呟きを聞きつけ、問い返した。
 「…泣き声だ」
 「さて、また喧嘩か悪戯か。見て参ります」
 ワタリは苦笑いしながら淹れたばかりの紅茶をLの前にそっと置いたが、それと入れ替わるようにしてLがいきなり立ち上がった。
 「ワタリ、あれは赤ん坊だ」
 「赤ん坊?」
 「そうだ。間違いない」
 「どこから聞こえてくるんでしょうか。近所にはそんなに小さな子供はいなかった筈ですが」
 「うちからだ」 
 「うちですか?」 
 「そうだ。見てくる」
 Lはすたすた歩いてドアの前に立った。
 「どちらへ?」
 「勿論、声がする方へ」
 泣き声は表門の方から聞こえてくる。弱々しい泣き声を頼りにLは門まで歩いて行った。
 近づくにつれ泣き声ははっきり聞き取れるようになっていたが、それでも小さな声だった。
 門を開けて外を見ると、キャリーバスケットが門柱の脇に置いてあった。
 「おやおや」 
 Lがバスケットを覗き込んだ時泣き声の主、生後二、三ヶ月とおぼしき赤ん坊はまだ泣いていたが、彼と目が合うと、何故だか声は弱まっていき、しまいには泣き止んだ。
 「お利口ですね。泣いて呼び寄せて目的達成とは」
 口元に笑みを浮かべると、Lはしゃがみこんでバスケットから赤ん坊を抱き上げたが、その時何かがひらりと地面に落ちた。
 「手紙か」
 それは便箋で、拾い上げて中を見るとあまり上手とは言えない字で短い文が書かれていた。

 『親切な方へ。
 この子の名前はエリンです。事情があって育てられません。どうかよろしくお願いします』

 「どうしてうちの前に置いていったのでしょう?」
 「ここは元々修道院だった。礼拝堂もそのまま残っている。だからただの養護施設だと勘違いしたんだろう」
 Lとワタリの目の前にはキャリーバスケットがあり、中には赤ん坊がいた。赤ん坊は何も知らずにすやすやと眠っている。
 「教会附属の施設だと思ったんでしょうかねぇ。子供はいますが神父もシスターもいませんのに」
 「中を覗き込んだりしたら怪しまれる。建物の雰囲気と子供達の声で勝手に判断したんだろう。地元の人間じゃないな」
 「もう日が暮れてしまいましたが警察には――」
 「しなくていい。こんな時間から乗り込んで来られると面倒だ。明日の朝にでもロジャーに連絡させよう。お前の方はお偉いさんに直接だ」
 「では私はオツム等を買い出しに行って参ります」
 「子守りは私か?」
 「マリアもロジャーも夕食前で忙しいでしょうから必然的にそうなりますね」
 「産んだ事もないのに」
 「私もです」
 ワタリはにこやかに微笑んでから出ていった。

 「さて、どうしたものかな」
 Lはバスケットを覗きこんで呟いた。
 「ワタリが戻るまで泣かないでいてくれると助かるんですが」
 赤ん坊はまだすやすやと眠っている。
 親がいない事にも気づかずに。

2/8ページ
スキ