「……さて、そろそろでしょうか」
 ノートパソコンをそっと閉じたLは、口元を緩ませその時を待った。
 すると、いくらも経たないうちに「コンコンコン」とドアが三回ノックされ、「Mr.竜崎、いますか?」と優しげな問いかけが聞こえてきた。
 ドアを背にして座っていたLはウンウンと頷くと、少しだけ振り返って返事をした。
 「リンダですね、鍵はかかっていませんからどうぞ」
 一番先に部屋を訪ねてくるのは大体がリンダだった。彼女は描き溜めたスケッチを見せにやって来るが、描いた絵を批評して欲しいからというのは口実で、本当はただ竜崎に会いたいからだった。

 「私はこれが一番気に入ってるの。どうかしら?」
 「優しい感じの絵ですね。あなたの内面が良く表れていますよ」
 「ありがとう。これはホントにスゴく気に入ってるの…」
 二時間ほど経ってリンダが部屋から出て行くと、十分ほど間を開けた後、二人目がやって来た。
 二人目は、「ゴンゴン」としっかりノックをしてくる。
 「Mr.竜崎、入ってもいいでしょ?」
 楽しげな声音。
 「マットですね。遠慮なくどうぞ」
 Lはまた頷いてから返事をした。
 いつも控えめなマットだが、竜崎が来ると分かるとそわそわし出す。新しいゲームやネットの話をしたくて仕方ないらしいが、彼もまた皆と同じでそんな事は口実に過ぎず、ただ竜崎に会いたいのだった。

 「この前教えてもらったゲーム、スゴく面白かった。でもクリアするのにちょっと時間がかかったんだよね」
 「時間がかかった? まさかあなたからそんな台詞を聞こうとは。それは手こずった訳ではなく、ロジャーさんにゲームを没収されたからなのでしょう?」
 「当たり! ゲームに夢中になって頼まれてた仕事を何回か忘れちゃったバツでさ、一ヶ月も没収されたんだ。一ヶ月だよ? 厳し過ぎるよね?」
 そうしてまた二時間程経ってマットが部屋から出ていくと、今度は十五分ほど間を開けた後、三人目がやって来た。
 三人目は軽く「コッコッ」と聞こえるようなノックをしてきたが、問いかけはない。
 「ニアでしょう? 入りなさい」
 熱々の紅茶をカップに注ぎながらLが答えると、静かにゆっくりとドアが開き、「…失礼します」と小さな声が聞こえた。
 「少しは表で遊ぶようになりましたか?」
 「…日に焼けます」
 「マットは肌が弱いから仕方ないですがあなたは違うでしょう?」
 「…汚れます」
 「汚れたら洗えばいいだけですよ」
 「…着替えも面倒です」
 「頼まなくても誰か手伝ってくれるはずですよ、あなたなら」
 「…一人で出来ます」
 「へぇ、一人で出来るようになったのですか。それは凄い進歩ですね」
 あまり周囲の事に興味を示さないニアだったが、竜崎には皆と同じ様に興味を示した(それでも非常に分かりにくかったが)。
 だが実際に会ってみても、喜ぶでもなく何かを報告したり自慢したりするでもない。
 まぁそんなでも、部屋をあちこち移動したがらないニアが、順番待ちをしてまで竜崎に会いに彼の部屋を訪ねて行く、という事実だけでも十分な事だった。

 Lが竜崎としてハウスを訪ねていくと、滞在中の数日間は朝から順に入れ替わり立ち替わり子供達がLの元へとやって来る。
 滞在時間はまちまちで、声をかけるだけで満足する者もいれば二時間ほどみっちり話をしていく者も。
 そして一番の信奉者は決まって深夜に現れる。

 真夜中の少し前、気配を感じたLは椅子から立ち上がるとドアの前に歩いて行った。ドアを隔てた向こう側、廊下からはミシッ、ミシッという床が軋むような小さな音が聞こえていたが、ドアの前でピタリと止んだ。
 Lは口元に笑みを浮かべ、ドアの向こう側に聞こえる程度の声で囁いた。
 「良い子は寝ている時間ですが悪い子にはお説教が必要ですから入れてあげますよ、メロ」
 そうしてノブを回して静かにドアを開けると、ちょっとだけバツの悪い顔をしたメロが立っていた。
 「…あの、ちょっと聞いてもらいたい事があって…昼間は皆がいてあなたとはなかなか話が出来ないから…それで…」
 「早く入りなさい。ロジャーさんに見つかるとまた面倒な事になりますよ」
 Lの声かけにメロは安堵してそそくさと中へ入った。
 
 いつもは固く閉ざしている扉を、容易く開け放つ事が出来るのはこの者達だけ。
 幼き者達だけ。
 
           Fin                        
                                   2014.11.07 了    

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