ソファー

 あぁもう随分とくたびれてきたなと思った。
 生地が薄くなっている箇所がいくつもあり、染みも。背もたれや足も傷だらけ。
 もう何年も、いや、何十年も手元にあるのだから古びて当然か。
 「…お前も私と同じだな……」
 背もたれのフレームをそっと撫でながら呟いた時だった。
 「捨てるなよ」
 声のする方へゆっくり顔を向けると竜崎だった。
 「生地を張り替えればいい」
 両のポケットに手を入れたまま、ワタリのそばへペタペタと足音をさせながら歩いてきた。
 「フレームは磨けばいい。多少の傷も仕方ない。使っていれば出来るものだし、使ってきた証だ」
 チラリとワタリの方を見やったが、特に表情は変わらない。
 「…ですが、座ると軋みますし、座面のスプリングもくたびれてきていますから座り心地はあまりよろしくないのではないかと…」
 ワタリが目を細め、もう一度背もたれに手をかけると、竜崎が座面にストンと腰を下ろした。
 「私が子供の頃から座ってるんだ。くたびれても仕方ない。だが、捨てるのは感心しない。修理すればいくらでももつ」
 そして膝を抱え込むと、いつものスタイルになった。
 「…分かりました。では職人に連絡を致します」
 「そうしてくれ」
 ところが、そう返した竜崎の瞼が半分下りていて、いつの間にが座面に腰が据えられ、いつものスタイルではなくなっていた。

 (あぁこれは……)
 ワタリは口元に笑みを浮かべ静かにソファーから離れたが、見る間に竜崎の瞼が更に下り、頭がゆっくりと一方に傾いだ。
 (やはり……)
 ワタリの笑みも更に広がった。
 竜崎はソファーに腰掛けた途端、睡魔に襲われたようだった。
 (これはやはり修理して使い続けなければいけませんねぇ…)
 ニコニコしながらワタリは頷いた。

 このソファーは確かに竜崎が子供の頃からあった。正確にはワタリの父親が使っていた物で、形見としてずっと手元にあったのだが、竜崎が子供の頃に初めてこのソファーに座ってからというもの、彼のお気に入りの場所になっていた。
 それからは時間の許す限りこのソファーに座ってきたが、大人になってからは座る時間はほとんどなくなっていった。
 仕事が忙しくなっていったせいもあったが、実は座らなくなっていった、という方が正しいかもしれない。何故なら、座ると必ず眠くなってしまうからだった。
 竜崎が子供の頃の一時期、眠たくてもベッドでは眠れない事があったのだが、そんな時に何故かこのソファーでは眠る事が出来た。だからしばらくの間、ベッド代わりに世話になっていたのだが、以来短時間でもこのソファーに座ると必ず眠たくなってしまうようになってしまった。だから出来るだけ座らないようにしたのだった(逆に眠くても寝つけない時はベッドではなくこちらに座るようにしていたが)。

 (こんな古びた物でも、あなたなりに愛着を持って下さっているのですね…)
 完全に眠ってしまった竜崎の身体にそっと毛布をかけてやりながら、ワタリはまた頷いた。


           Fin
                                             2014.01.05

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