訪問者

 そこで質問は終わったと思った。
 ところがMはさらに質問を重ねてきた。それはどう答えてやればいいのか困る質問だった。 
 「…あなたも…そういうこと…したことあるんですか?」
 
 正直に「いいえ、私はありません」と答えてやるのが正しいのか、それとも嘘をついた方がいいのか。 
 「ありますよ。あなたぐらいの歳の子はほとんどと言っていいほどやってるでしょうね。そういう衝動は男の子は特に強いです。奨励するわけではありませんが、異常な行為でも、罪悪感を持つ必要もありません。どんなに取りすました大人も、子供の頃は皆同じようなものですよ」
 嘘の方を選んだが、Mはそれ以上質問してこず、安堵の笑みを浮かべ自室へ戻っていった。
  
 竜崎はしばらくドアを見つめていたが、デスクの方へ向き直り、パソコンの電源を入れた。そしてキーボードを軽く叩き、調べ物を始めた。ほどなくして目的の物が画面に浮かび上がった。
 こちらに背を向け、全裸で寝台に横たわる女。傍らには鏡を持ったキューピッドが控えている。
 ディエゴ・ベラスケスの「鏡のヴィーナス」だった。
 
 ティツィアーノでもジョルジョーネでもカバネルでもなく、これに惹かれるとは。
 なかなかの審美眼の持ち主です。
 
 あれから、彼の前に本物のヴィーナスは現われたのだろうか。
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