訪問者
Mの話は、思春期の男の子に特有の、ある種の悩みに関するものだった。
半年ほど前、ハウスでシェークスピアについて勉強した時に、先生が薦める作品の中から気に入ったものを選び、さらにその作品の中の好きな場面やセリフや選んで選んだ理由を説明し、後日皆の前でその部分を暗唱するという課題が出された(子供に出す課題としてはかなり難しいが、ハウスの子供達はただの子供達ではなかった)。
人を驚かせるのが好きなMは薦められなかったもの―――「ヴィーナスとアドーニス」中でも一番刺激的な部分を―――を選んだ。有名な詩だが、刺激的な内容が子供向けではないと判断した先生は賢明だった。
とにかくMはそれの、中でもとりわけ刺激的な部分を一生懸命覚え,一字一句間違えず、見事に暗唱してみせた(成績には全く反映されなかった上、先生には大目玉を喰らったが、教授には大ウケしたようだ。彼はとてもユーモアのセンスがあったから)。
そのせいか、一時期ハウスの図書室からシェークスピアの詩の本がごっそり隠されてしまったが、懲りない彼は街の図書館へ行き本を探した(ここまでは問題ない事だった)。
そこで彼は詩に関連付けて美術書も開いた(ここからが問題だ)。美術書にはアドーニスに追いすがるヴィーナスやらルーブルに置いてある有名な彫像やらの写真があった。そうして観ているうち、とある一枚の絵に目を奪われてしまった。
背中をこちらに向け、寝台に全裸で横たわる女性。背中から腰、腰から臀部にかけての肉感的なラインが艶めかしく、扇情的で目が離せなかった。特に腰から臀部にかけての流れ、肌のつや、が頭から離れなかった。
そしてその晩、Mは初めて自慰行為をしたのだった。
頭から彼女の艶めかしい姿が離れなかった。昼間は勉強が忙しくそちらに気がいくことはなかったが、夜、部屋で一人きりになると、あの瞬間を思い出し、絵を見て興奮するなんておかしいと思いながら、それでも止められず―――快感が忘れられなくなった。それは何にも例えようがなく、何とも比べられない、それでしか得られない。
自分は異常ではないかと思ってしまったらしい。
異常だなんてとんでもない。
話を聞いた竜崎はMが羨ましいと思った。自分の欲望に正直な彼が。
「どんなものに性的魅力を感じるのか、それは人それぞれで同じではありません。人がそれぞれ違うように。あなたのように絵や写真などに惹かれる人もいれば、生身の人間でなければという人も。さらに人ではなく、人が身につけるものにそういう魅力を感じる人もいます。どれが異常でどれが正常かなんて、誰にも決められないんですよ。まあそう言いきってしまうと人類が長年に渡って築きあげてきたモラルなどは崩壊してしまいますが」
竜崎の言葉を聞いて、Mは顔を赤らめた。
半年ほど前、ハウスでシェークスピアについて勉強した時に、先生が薦める作品の中から気に入ったものを選び、さらにその作品の中の好きな場面やセリフや選んで選んだ理由を説明し、後日皆の前でその部分を暗唱するという課題が出された(子供に出す課題としてはかなり難しいが、ハウスの子供達はただの子供達ではなかった)。
人を驚かせるのが好きなMは薦められなかったもの―――「ヴィーナスとアドーニス」中でも一番刺激的な部分を―――を選んだ。有名な詩だが、刺激的な内容が子供向けではないと判断した先生は賢明だった。
とにかくMはそれの、中でもとりわけ刺激的な部分を一生懸命覚え,一字一句間違えず、見事に暗唱してみせた(成績には全く反映されなかった上、先生には大目玉を喰らったが、教授には大ウケしたようだ。彼はとてもユーモアのセンスがあったから)。
そのせいか、一時期ハウスの図書室からシェークスピアの詩の本がごっそり隠されてしまったが、懲りない彼は街の図書館へ行き本を探した(ここまでは問題ない事だった)。
そこで彼は詩に関連付けて美術書も開いた(ここからが問題だ)。美術書にはアドーニスに追いすがるヴィーナスやらルーブルに置いてある有名な彫像やらの写真があった。そうして観ているうち、とある一枚の絵に目を奪われてしまった。
背中をこちらに向け、寝台に全裸で横たわる女性。背中から腰、腰から臀部にかけての肉感的なラインが艶めかしく、扇情的で目が離せなかった。特に腰から臀部にかけての流れ、肌のつや、が頭から離れなかった。
そしてその晩、Mは初めて自慰行為をしたのだった。
頭から彼女の艶めかしい姿が離れなかった。昼間は勉強が忙しくそちらに気がいくことはなかったが、夜、部屋で一人きりになると、あの瞬間を思い出し、絵を見て興奮するなんておかしいと思いながら、それでも止められず―――快感が忘れられなくなった。それは何にも例えようがなく、何とも比べられない、それでしか得られない。
自分は異常ではないかと思ってしまったらしい。
異常だなんてとんでもない。
話を聞いた竜崎はMが羨ましいと思った。自分の欲望に正直な彼が。
「どんなものに性的魅力を感じるのか、それは人それぞれで同じではありません。人がそれぞれ違うように。あなたのように絵や写真などに惹かれる人もいれば、生身の人間でなければという人も。さらに人ではなく、人が身につけるものにそういう魅力を感じる人もいます。どれが異常でどれが正常かなんて、誰にも決められないんですよ。まあそう言いきってしまうと人類が長年に渡って築きあげてきたモラルなどは崩壊してしまいますが」
竜崎の言葉を聞いて、Mは顔を赤らめた。