束の間

 どこからか水音がします。
 私は音の出所を探してあたりをうろつきましたが、目線が低いようで何だかよく分かりません。ふと見上げると、少し高さのある物が目につきました。あれに登れば何か分かるのでは、と思うとすぐに体が動き、私はそこに飛び乗っていました。
 そこはベッドのようでした。そこからあたりを見回すと、化粧台と座り心地が良さそうなソファーが目に入りました。そのソファーはとても魅力的で、あそこで眠るのはさぞかし良い気分に違いないと思わせるようなものでした。
 名前を呼ばれたような気がしたので、声のする方へ行く為ベッドから――身体がとても軽く、しなやかな動きをするので何だかとてもいい気分で――飛び降りました。
 声と水音は同じところから聞こえてきます。ドアの隙間から中に入ると、そこはどうやらバスルームのようでした。

 彼女は私を「ソックス」と呼びました。ここへ連れて来られてすぐつけられた名前ですが、何故か不満でした。その名と私とは何故かお互いが相容れない関係のような気がしたのです。変ですね。
 私は何故そんな名前を付けられたのか気になりました。彼女は付けた理由を言わなかったのです。ただ私を見てすぐに「…あなたの名前はソックスね」と言っただけでした。
 そこで私は自分の姿を見てみようと思いました。幸いここはバスルームなので洗面台があります。私は先ほどベッドに飛び乗ったように、軽々とそこへ飛び乗る事が出来ました。 そこには大きな鏡があり、そしてそこに映っていたのは―――ミャウと鳴き声を出す生き物―――猫でした。
 どうやら私、竜崎は猫になってしまったようです。
 私は全身真っ黒なのですが、何故か後ろ脚二本だけが靴下を履いたように真っ白で、彼女が「ソックス」と名付けたくなるのも分かるような気がしました。

 「どうしたの?」
 彼女が現れましたが、私は鏡に映った彼女の顔を見てびっくりしました。それまで私は具合が悪いのか眠ってばかりで、彼女に抱き上げられても、まともに顔を見ていなかったのですから。
 彼女は私が世話係として雇ったエリだったのです。そして更にあろうことか、彼女は裸だったのです。
 私はちょっとしたパニック状態に陥ってしまいました。
 これは夢なのだからそれほど気にする事はないのでしょうが、私は気が動転してしまいました。
 夢とはいえ、何故こういうシチュエーションになるのか。私の中に多少なりともそういった願望があり、それがこういった形で現れてしまったのか。
 私はどうしていいか分からず、洗面台の上を行ったり来たりしながら「ミャウミャウ」と鳴く事しか出来ません。人間なら手で目隠しをしたり、「すみません」と言って逃げだせば済むのでしょうが。
 すると彼女は何を勘違いしたのか「何か怖いものでもあったの?」と言いながら、私の脇に手を入れて、優しく抱き上げたのです。鏡には、彼女の裸の上半身が映っています。私は出来るだけそちらを見ないようにしたいのですが、そうすると、彼女の胸に顔を押し付ける事になってしまいます。
 一体どうすれば?
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