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生意気な年下にうっかり惚れられまして。

オフィスから数分の場所にある、あんかけ焼きそばが有名な中華料理店。
平日の昼時から少し時間をずらせばそこまで混むこともなく、14時近くともなると並ばずとも7人ひとつのテーブルに入ることができた。

「俺はこれ、牛肉入り辛口やきそばのセット。やっぱここの店といったらやきそばでしょ」

この店もここらで働くオフィスワーカーにとって、男女ともに人気がある鉄板の店で、椋太も気に入ってよく足を運んでいた。
ボリュームも濃い目の味付けも、外出の多い椋太にとっても、ガツンと満足感があるので好きだった。

「あ、俺もやきそばの、海鮮入りの方で……!」
「俺も……これで」

澤村も海鮮入りを指差したのを見て、すぐさま椋太は幹事力を発揮する。

「他に海鮮の人!……ええと、3人ね。ちなみに俺と同じ牛肉いる?あ、事業部長もですね。あとは~……」
「ノーマルので」
「回鍋肉入りで!」
「なんだ、みんなやきそばか……」
「まあ、美味しいですもんね」

このあたりは立地上、そこまで安いランチがなく、社内にある社食を使う者も多かったが、さすがに毎日となると飽きてくるため、こうしてたまに外に出る社員もいた。
椋太はランチもコミュニケーションを深める場として、一緒に食べる人やその時のネタによって、社食と外食を時と場合に応じて使い分けていた。

注文が終わって早速澤村に声をかける。話題のきっかけ作りとしても良いかと話をはじめた。

「澤村さんたちは普段皆さんでご飯食べられたりはするんですか。エンジニアの人って、集中して作業されていることが多いからなかなかご飯いくタイミング作るの難しそうだなって」
「……切りが良いところで、それぞれバラバラに行くことが多い」

そこでぷつりと言葉が切れる。
その割には視線はこちらをまっすぐ見据えたままだった。

(すごくこっち見てくるクセに、ほんっとに話さないなこいつ…!)

するとすみません、とばかりに同じシステム担当のひょうきんな物言いの男、井村がフォローをいれた。

「まあ僕ら普段はこんなんなんで、毎週金曜にとんかつの会やってますよ」
「とんかつの会?」
「地下鉄の駅改札でたところにあるとんかつ屋ご存知ですか?塩で食べるところ」
「ああ、おいしいですよねあそこ」
「もともとは澤村があそこの肉はさっぱり食べれるし、無限キャベツのドレッシングがうまい、って連れてってくれたんですが、それ以来みんなハマっちゃって。
それでなんとなく毎週行くようになったんですよ。
といっても僕ら出勤が遅いから、毎度14時とか15時とかになっちゃうんですけどね」

ははは、と頭を掻きながら笑う。

「俺もあそこのキャベツ好きなんでわかります。細く切られていて舌触りがいいんですよね、いくらでもおかわりできますよね」

それに対して、他のメンバーはうんうん、と口々に同意をしているなか、澤村も静かにこくり、と頷いた。

(つうか、言葉に出して同意しろよっ……!)

周りが盛り上がる中、黙ったままの澤村に、思わず心のなかで突っ込んでしまう。

(――にしても、食べ物に執着なさそうなツラしてんのに、案外いろいろ考えて食べてるンだな)

何を考えているのかわからないような男だったが、食の好みが近いところは少しだけ親近感が湧く。

(今の話からすると、システム内ではそれなりにコミュニケーションは取れてるんだな……意外。
もしかしたらやっぱ態度が微妙なだけで、案外おもしろいヤツなのかもしれないな)
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