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ボーイズ・イン・ブルー

「まだはっきり決めた訳じゃないけど、多分普通に四年制。まあ大学通いながらでもギターは続けられるしさ」
「そうなんだ。あれだけ弾けるんだし、てっきり音楽系の専門とか目指すのかと思ってた」
「んー……ま、それも考えないでもなかったんだけどさあ」

 千尋は背後の机のもたれ掛かって、自身のつま先の方をじっと見つめながら言葉を続けた。

「絶対ギターで食っていきたいとか、ギターを仕事にしたいとか、そういう訳でもないっていうか。今まで楽しいだけでやってきたけど、じゃあこれからどうするのって兄貴に言われたんだよね」

 つらつらと語る千尋の口から思いがけない人物が飛び出してきたことで、静は僅かに目を瞠った。

「……お兄さんとそういう話するんだ」
「調査票、リビングのテーブルに置きっぱなしにしててさ」

 驚きのままにぽつりと落ちた静の呟きを掬いあげて、千尋は窓の外を見やった。
 ここ最近、夜は毎晩のように雪がちらついて、東京だというのに校庭には薄く白い絨毯が敷き詰められたようになっている。重たく横たわるような灰色の空からは、今にも粉雪が降り注ぎそうに見えた。

「で、ちょっと話して。兄貴は兄貴で将来のこと色々考えてメジャーの話蹴ったんだなって、ちょっとだけ分かったっていうか……」
「うん、そっか」

 相槌を打ち、静は考える。千尋の兄が何を思ってギターを辞めたのか、もちろんそれは静にはその理由の全てを推し測ることはできない。けれど、彼の気持ちも分からなくはない、と感じられるのもまた事実だった。
 恐らく、千尋の兄は、何かひとつのものをずっと好きでいることの難しさを知っているのだろう。色々な理由でそれを続けるのが難しくなったり、好きだからこそ嫌になる――そんな瞬間を、知っている人なのだ。

――この先、ずっと絵を好きでいられるだろうか。千尋のことを、好きでいられるだろうか。

 考えても仕方ないことはあれど、こうした疑問とはこの先ずっと付き合っていかなくてはならないような気がしている。
静の手が止まったことを不思議に思ったのか、千尋が隣から覗き込むようにして視線を寄越した。

「……シズ?」

 至近距離で呼ばれ、はっと我に帰る。目の前のキャンバスから視線を外し、静は千尋の瞳をまっすぐに見つめた。
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