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ボーイズ・イン・ブルー

 教室の窓から見える木々は全ての葉を落とし、青々とした緑の代わりに白い氷を纏っている。静はカーディガンの袖を伸ばしながら、頬杖をつき鼻を軽くすすった。
 昨日の夜はひどく寒かった。毎年センター試験の時期には何故か東京でも雪が積もることが多いと言われているが、今年も例に漏れずその通りになってしまったらしい。一つ上の学年の受験生たちは、明日に試験を控えている。今日の夜中にもまた降るのだと天気予報が言っていたから、きっと彼らはげんなりした気持ちで明日の朝を迎えるのだろうと思うと、少し気の毒だった。

 受験。進路。ぼんやりとした輪郭しか持たなかったそれらの言葉が、一気に明確な形を持って目の前に現れるようになってきている。机の上には、先ほど配布されたばかりの進路希望調査票。ホームルームの教室で、「来週末までに提出するように」と担任教師が何度も繰り返している。
 これから先続いていく人生のことなんて、考えれば考えるほど分からなくなってしまう。眩暈がするほどにたんまりと用意されているように見える時間。一部とはいえ、その莫大な時間の過ごし方を十代の今決めなくてはならないと考えると、何だか無茶な話だよなと静は思う。

――千尋は、これに一体何て書くんだろう。

 千尋だけではなく、梶ヶ谷についてもそうだ。普段は将来のことについてなど取り立てて話したこともないから、二人がどんな未来を描いているのか聞いたことはない。
 先日実施された個人面談では、進学か就職かと問われただけだった。学校の校風からしても進学を推奨しているらしく、静自身も大学は出ておいた方が後々何かと役に立つだろうとは思っていたので、進学を考えている旨を伝えて終わりだった。これからまた模試の結果などを見ながら面談を繰り返して、進路を決定していく――そう説明する担任の声はどこか遠く、静はぼんやりと窓の外の景色ばかりを眺めていた。

 やがてホームルームの終了を告げる鐘が鳴ると、梶ヶ谷が椅子から立ち上がり静の方へと近づいてくる。机の上に出しっぱなしのままの調査票を指さした梶ヶ谷は、今日の昼食を何にするか決めたかどうか尋ねるような声色で問い掛けた。

「滝沢、もう受けるとこ決めた?」

 普段通り抑揚に掛けたその声に、静は小さく首を振る。すると、今度はやや変化球な質問が飛んできて、静は少し目を瞠った。
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