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ボーイズ・イン・ブルー

「うーん、何というかそれ自体はもう慣れっこみたいなとこもあってさ。……でも、今になってみれば、まあやっぱりどっかむかついてはいたのかも。うん、だから、シズと話すのは楽しかったんだと思う」
「どういうこと?」
「オレ、同じ学年の奴らの間でもちょっとした話題になったりしててさ。『お前の兄貴ヤバかったんでしょ?』みたいなの散々言われたんだよね。マジあいつ何者だよって感じ」

 千尋はふう、と息を吐き、そうして一度言葉を切った。
 上向く視線は、兄の影を見ているのだろうか。そう思うと静は何も言うことができずに、そのまま次の声を待つ。

「でもさー、シズはそういう先入観?みたいなの全然持ってなかったでしょ。初めて話しかけたときとか、マジで『は?誰こいつ』みたいな顔してたし」
「……そんな顔してた?」
「してたしてた。それ見てさ、あーなんか新鮮だなって。それに、何より趣味合うだろうなってすぐに分かったから」

 あれ聞いてるやつなんて軽音にもあんまり居ないよ、と悪戯っぽく笑って、千尋が遠くの方を見るようにして目を細める。前方には駅前のネオンの輝きがちらちらと現れ始めていて、この時間がもうすぐ終わってしまうということをやんわりと突き付けられているようだった。
 自分の気持ちに気付くまでは、別れ際に揺れる千尋の瞳を見るのがつらかった。けれど、静は今、昨日までとは違う寂しさが自身の胸の中に溢れてくるのを感じていた。

「……何言ってもたらればだけど。俺、自分がもっと社交的で明るい性格だったら千尋と釣り合ったのかな、とか、ずっとそんな風に考えてた。でも、この無関心のおかげで千尋があの日俺に近づいてくれたんだったら、何か全部それで良かったのかもって。今はそう思えるよ」

 千尋が肯定してくれたから、こんな自分でも良いんだと思えた。そのことを、きちんと言葉にしたかった。静が微笑むと、千尋も柔らかく応えた。

「うん。オレのこと、ちゃんと考えてくれてありがとう。受け入れてくれて、嬉しかった」

 子どものように笑う仕草は、出会った頃のまま、他のどんなものよりも静の瞳に眩しく映る。
出来ることなら、この笑顔をずっと隣で見ていたい。そのために、これからもっと自分のことも、千尋のことも、知っていきたい――。
祈りにも似た静の思いは、吐息とともに秋の夜空へと吸い込まれていった。
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