このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ボーイズ・イン・ブルー

「俺、千尋が好きなんだと思う」

 自分でも驚くほどにすんなりと滑り落ちた言葉。千尋が振り返る。静はまっすぐにその瞳を見つめた。
 静は答えを待ったが、千尋の頬はみるみるうちに色づいていき、「あー」とか「うー」とか言いながら顔を手で覆ってしまう。そんな調子で返事を貰うことができなかったので、静は再び確かめるように口を開いた。

「結局、自分で勝手に納得して、って形になっちゃったけど……うん、俺……多分、ちゃんと千尋のことが好きだ」

 改めて自身の胸に問い掛けてみても、やはり同じ答えが返ってくる。一番近くにいたい、誰にも渡したくない。千尋に抱いているこの身勝手な思いこそ、きっと自分が千尋を好きなことの何よりの証明になるような気がしている。

「まさかこのタイミングで言われるとは思ってなかった……」
「そう?ごめん、今言いたいなって思ったから」

 まだ赤みの引かない頬を両手のひらでさすりながら、千尋が少し拗ねたような声を出した。確かに、ムードも何もあったもんじゃない状況だ。けれでも、何となくそれが自分達には合っているんじゃないかと静は思う。

「あと少し、聞いて。……俺さ、付き合う……とか、そういうことも考えてみたんだけど。今までも、結局千尋と過ごす時間が一番多かったし、何かあんまり変わらないのかなって」
「うん」
「だから、今までみたいに、友達でもいたいし。でも、千尋の気持ちも分かってるつもりだし、俺も同じ気持ちでいるって思うから」

 静が言葉を継ぐ度、白い吐息が宙に舞う。千尋が地面を蹴ったのと、静が一度閉じた口を意を決してもう一度開いたのは同時だった。

「だから、千尋と新しい関係にもなれたらなって……」

 尻すぼみになってしまったのは、覆いかぶさるように飛び込んできた千尋の身体に阻まれたからだ。夜の風に冷やされていた肌に、次第に千尋の体温が移ってくるような心地がする。周囲に人影がないのが救いだ。こんな状況を誰かに見られたら恥ずかしさでどうにかなってしまうだろうな、と静は身じろぎした。
42/50ページ
スキ