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ボーイズ・イン・ブルー

「うちの兄貴、ほんっとに何でもできるんだよね。勉強もスポーツもバリバリ。どっちも常に学年トップみたいな、そんな感じでさ」
「……そういう人って、ほんとにいるんだね」
「何かもうさ、それこそ漫画の登場人物かよって感じなの。その上うちの高校の何代か前の生徒会長とかもやってたもんだから、入って早々オレは先生たちから『あの瀬田の弟か』って何回も言われたよ」
「……でも、千尋がさっきみたいに言ったのって、多分それが理由じゃないよね?」

 静が尋ねると、千尋は手にしたシャープペンシルをくるくると弄びながら首を縦に振った。

「……兄貴さあ、ギター、めちゃくちゃ上手いんだよ。大学入ってからはもうバンドやってないんだけどさ、高三になったばっかの頃に学生限定のコンテストで優秀賞取って。その後ろについてるレコード会社からデビューの話もあったんだよね」

 やはりか、と静はひとり納得する。基本的におおらかな性格の千尋があそこまで態度を変える理由があるとするならば、それは千尋の大事なもの――音楽に関することだろうと踏んでいた。告げられた内容自体はやや予想を上回っていたものの、それ以上に腑に落ちたという感覚の方が大きい。

「それなのにさあ、その話蹴って大学受験して、ギターきっぱりやめちゃったんだよね。そこのも二本は兄貴のお下がりだし、なんかこうさあ……」

 千尋は部屋の隅に置かれたギターを指差し、いかにもやりきれないといった表情でぼやく。

「兄貴みたいになりたいって思ってたのに、その目標が突然消えちゃって。ガキ過ぎてほんと自分でも嫌になるけどさ、早い話、オレは拗ねてんの」
「……お兄さんが、ギター弾かなくなった理由って、何かあるの?」
「それ、オレも何回も訊いた。でも、『バンドと大学どっちも中途半端にしたくないから』の一点張り。……あの完璧超人なら絶対上手くやれるはずだし、オレとしては今でも納得できてないけどね」

 後半はほぼ溜息のようになって、千尋は心ここにあらずといった様子で机の上に積み上げられた参考書の山をじっと見ている。
 静には兄弟がおらず、千尋の葛藤や悔しさを推し測ることはできない。けれども、もし自分が千尋と同じ立場だったら――そう想像すると、確かに複雑な感情を抱くのも無理はないかもしれない、とも思う。
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