このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

生意気な年下にうっかり惚れられまして。

本格的な追加開発に入ると、あれこれ考える暇はなかった。
気まずいということすら忘れるほど、椋太も作業で手一杯といったところが実情だ。

澤村達に張り付き、デバッグなどの対応を手伝うことももちろん、同時に新規開拓クライアント向け資料などの改定など、様々な作業が覆いかぶさってくる。

そんな中事件は起きた。

「は……、原因不明のバグ……?」
「アナログな作業にはなるが、発生源を見つけては潰している。だが再現できたりできなかったりも多くかなり原因解明に時間が取られそうだ」

澤村は珍しく眉をひそめ、疲れたような表情を見せる。

「しかも、井村さん、阿部さん、三浦さんたちが軒並みインフルエンザ……」

呆然とした声しか出ない。

そう、2、3日前から考えていたより3ヶ月は早く流行り始めたインフルエンザに、システム担当たちが軒並み罹患してしまったのだった。
幸いリーダーである澤村はなんともなく開発を進めているものの、他のメンバーが携わったソースコードをメインに大規模なバグが発生しており、悪条件が重なってしまったのだった。

「なんか……誰か、厄年?」
「とにかく……今開発スピードが落ちるのは致命的だ。申し訳ないが、白井さんにもいろいろと面倒かける」

仏頂面の澤村が、実は皆と仕事を気にかけていることは今まで付き合ってきた中で知っていた。

「ああ、俺が出来ることはやるよ。任せとけ」

こういう時こそ暗い顔をしていられない。そう椋太はにやり、とチェシャ猫のように笑った。

夜11時。

(なんとか……俺ができることはとりあえずやったけど……)

澤村は、どうしてるだろう。
自分が出来ることは一通り目処が付いたものの、椋太は居ても立ってもいられなかった。

気がつくと階段を駆け下り、ほぼ無人となった澤村のいるフロアに降り立つ。
案の定、一人でまだパソコンと格闘していた。

「よっ」
「ん」

澤村は画面から目を離さぬまま、カタカタと猫背でキーボードを打っている。
大きい身体を椅子に小さく押し込め、片膝を椅子にあげて丸まっている姿は窮屈にしか見えなかったが、それが彼にとっては楽なプログラミング姿勢のようだった。

「なんか食った?」
「まだ」

そのタイミングで、ぐうぅ、と澤村のお腹がなる。

「ははっ!お前のお腹正直だな。なんか買ってきてやるよ」
「頼む」

その間も澤村はずっとパソコンから目を離さなかったが、悪い気分はそこまでしなかった。
20/39ページ
スキ